(2-2) 円高・円安判断の方法

 為替レートにおける過剰な円高・円安の判断方法を探った。“順当な”為替レートは国の経済力(通貨の実力)を反映してゆったりと変動するが、日々、月々のレートは金利政策等々で実力からずらすことが出来るようである。数年間は政策的にずらせても、あるとき突然為替レートが急変して、そのズレは回復されてしまう。結果として過剰円高期と過剰円安期が数年周期で入替わる。個人のレベルでは、この過剰な為替レートのズレを意識して、資産運用を進めればよいと考える。この手法だと、2009年6月下旬の為替レートは「やや円高」ないし「並の円高」(とんでもない円高ではない)と判断される。

 名目為替レートと実効実質為替レートのそれぞれの時間変化の中心線変動を、各時点の為替レート値に日付を変数とする多項式で最適近似曲線(最小二乗法フィッティング)として得る。このとき、フィッティング期間によって多項式の最高次数に制限を掛ける。原則として、0-10年間なら1次式、11-20年なら2次、21-30年なら3次、31-40年では4次、41-50年間のフィッティングは5次式とする。一見任意的に見えるこの次数制限により、フィッティングが為替レートの短期揺動に過剰に追従すること抑え、為替レートの中心線変動(通貨の”実力価値”の変動)を得ようと言うわけである。各国の通貨の実力(購買力、経済力)はそれぞれの国の国力を反映してゆったりと変動しているはずであり、これを「中心線変動」と呼ぶことにする。

 まずドル円名目為替レートの1973年以降2009年6月までの各月末の値の変動とその中心線変動(4次式による最適フィッティング曲線、赤線)を図2-2-1に示した。変動中心線(赤線)は、1973年当時1ドル280円であったが、2009年では95円位になっている。この長期変化の要因は、アメリカのインフレ率の方が日本のインフレ率より高かった(従って金利も平均としてアメリカの方が高かった)ことの反映である。この赤線の緩やかな変動の上に、小刻みの揺動(ズレ)が載って為替レートが日々刻々変動している(黒線)。黒線が赤線より下ならば過剰円高・外貨安、上ならば過剰円安・外貨高という判断になる。

 1999年からユーロの流通が始った。ユーロ/円の名目為替レートの変遷は図2-2-1の緑線で示されている。ユーロの歴史は10年ちょっとなので2次式回帰線で中心線変動を求め、図に青線で示した。

 ある時点における (赤線値-黒線値)/(黒線値) がドル円名目為替のズレ率で、負ならば過剰な円高・ドル安である。同様に、(緑線値-青線値)/(青線値) がユーロ円名目為替レートのズレ率で、これが負なら過剰な円高・ユーロ安である。ドル円名目為替のズレ率とユーロ円名目為替レートのズレ率の平均値(両通貨が、先進外国の通貨として1/2ずつの重要度と考えて1:1で平均した)を「名目為替のズレ率」とし、“過剰な”円高・円安判断に使うことにする。

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 次に、実効実質為替レートの履歴を図2-2-2に示す。実効実質為替レートは世界と日本の貿易量で加重平均した、世界各国の物価指数で補正した日本円の対外購買力である。繰り返すが、実効実質為替レートは大きい値が円高・外貨安である。黒線に注目して、日本円の世界における購買力は1994-1996年ならびに1999-2001年頃がピークで、当時日本人は海外旅行を大いに楽しめた。2008年の日本円購買力はピーク時の40%減で、2007年-2008年には外国人が“外貨で見たら物価の安い”日本で旅行を楽しんでいる。2008年夏の日本円の購買力レベルは「低下」を通り越して「悲惨」のレベルであった。日本円の購買力は、2001年頃から2008年夏の間に30-40%目減りしたことになる。つまり、資産を日本円で持っていたら世界における購買力(資産価値)が大幅に下落していた。ところが、2008年末頃から突然の円高で、日本人は世界の中では金持ちになった。今度は日本人が外国旅行を楽しむ番だと言いたいが、円高に成るのは不景気で外国旅行に行けそうにもないときばかり、どうなってるのだろう。

 話しを元に戻して、図2-2-2において黒線が赤線よりも上ならば為替は“過剰に”円高・外貨安であり、黒線が下ならば“過剰に”円安・外貨高と言うことになる。

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 なお、こういった実測値のプロットに最適フィッティングして得られる近似曲線の信頼度は、いつでも横軸値の両端付近(つまりグラフの左右の端)で低下する。つまり、為替レート中心線の変動曲線の最近の部分の信頼度は低く、ましてや外挿して未来を予測する場合の信頼性は更に低い。これは統計処理(理論的予測ではなく、経験的予測に過ぎない)の常である。なお、図2-1-2の中心線(赤線)は将来急速に下降(日本円の対外価値の急下落)する様に描かれているが、中心線を実測プロットへの5次式近似(図2-2-2 青線)で求めると、下に凸のような中心線が得られ、やがて日本円の対外価値が上昇しそうな雰囲気の曲線になる。いずれにしても、ここでの取り扱い方法では、中心線変動を将来に向かって外挿しても無意味である。とはいうものの、グラフ右端の”中心線”と為替レートプロットのずれから、現在は過剰円高、だからいずれ為替レートは逆の円安方向に進むことになる、と将来を予測するのではあるが。
 なお、赤線と青線の黒線へのフィッティングは青線の方がやや良い。よって、実効実質為替レートの中心線としては、5次式回帰線(青線)を選ぶことにした。

 図2-2-1ドル円&ユーロ円名目為替レートと図2-2-2実効実質為替レートから過剰な円高・円安、つまり緩やかに変動する中心線から月々の為替レートが“過剰な”円高・円安にズレた率をプロットすると図2-2-3を得る。ここに「ズレ率」とは
  (ズレ率) = (遥動率)= [{(為替レート値)-(中心線の値) } / (中心線の値)]  %表示
である。このメモでは、「ズレ率」のことを「遥動率」とも表現し、両者を同義語として使う。

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 図2-2-3には、名目為替レートのズレ率($/\ と euro/\名目為替レートのズレ率の平均値)(図2-2-3の赤線)と実効実質為替レートのズレ率(図2-2-3の青線)の各月の値をプロットした。赤線は下が円高、青線は上が円高であるが、それぞれのズレ率は0%ラインを挟んでほぼ上下対称な形をしていて、この手法で過剰な円高・円安を見積もれることが示されている。また、どちらの為替レートを使っても「過剰な円高、過剰な円安」を正当に判断できることを示している。赤線と青線の交差は±5%以内で起こっている。簡単にデータ収集できるドル円およびユーロ円名目為替レートとその中心線のズレ率の平均値を調べ、それが±7%以上のズレを示したら、それは明らかな円安/円高であると判断してよいであろう。勿論、日銀が毎月発表する実効実質為替レートのズレ率を使い、それが±7%以上ずれたら過剰円高・円安と考えてその月(正確には前月)の円安円高を判断してもよい。

 過剰円高期には対外投資に重点をおき、過剰円安期には国内投資を進めると、中長期に亘る資産運用として良い結果をもたらすと期待できる。長期運用を目指す個人投資家にとって明日、来月、来年の為替を予測する必要は無い。老後生活費の蓄積ないし防衛が目的であり、現時点での内外投資の比をどのように選ぶかを大まかに判断できたら、長期の資産運用に役立つと期待している。
(2009/6/29)

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