(10-1) 世界の株式指数と債券指数の長期間経時変化グラフと運用の基本方針

 ここで考えるインデックス運用の基本は5つの投資信託から成る。まず、五つの金融商品指数の長期間時系列データのグラフを眺めて、資産運用の方針を考える。事実こそが全ての出発点。ここで使う投資信託の一般名、ここで使う略称、ならびにそのベンチマークとなる指数は以下の通りである:
  国内債券 日債 日興BPI総合 (または野村BPI、しかし野村の指数の長期データ無料公開が無いのでここでは不使用)
  海外先進国国債 外債 Citigroup WGBI ex Japan ヘッジ無、円換算値 
(無料公開無く、該当する市販投信時価履歴で代用)
  国内株式 日株 MSCI Japan Net指数 円表示 (またはTOPIX、配当再投資評価額の長期データ無料公開が無くここでは不使用)
  海外先進国株式 外株 MSCI KOKUSAI Net指数 円換算値
  新興国株式 EM株 MSCI Emerging Markets Net指数 円換算値
  データソース:
  日興BPI:  http://www.nikko-fi.co.jp/Nindex/bond/download/download.html
  MSCI株価指数:  http://www.mscibarra.com/index.html
  実効実質為替レート:  http://www.stat-search.boj.or.jp/index.html
   (ただし日銀は「実効実質為替レート]計算を打ち切って、今は発表なし。)
  US$指数値をJP\値に換算する為替レート:  http://money.www.infoseek.co.jp/MnForex/fxlast.html

歴史が短くその振舞いもよく判らないリート(REIT、不動産投資信託)への投資は、ここでは行わない。
不動産金融専門家のブログ(ニューヨークの窓から一考察、http://tsubuyakinewyorker.blogspot.com/2010/03/reit.html)によると、日本のREITは建設会社の系列子会社が運用していて、米国で問題の発覚したモデルをそのまま踏襲して、素人投資家を餌にする酷いREIT運用の形態をとっているとのこと。如何にも有りそうなことである。このブログを読んで、REIT投資に手を出してなくて良かった思う。

 さて、上述の5つの指数と$/\と€/\の為替レート平均値(値が小さいほど円高・外貨安)の常用対数値の長期間データ(無料公開されている全期間分の毎月末データ)の経時変化を図10-1-1に示した。すなわち、図10-1-1には指数や為替レート(厳密に言うと日本円単位で表した指数の単位を除けた部分、これを以下ではyと表す)の対数値(log10 y)を日付(厳密に言うと指数を“測定”した日付を1900年1月1日から数えた日数の単位を除けた部分、これを以下ではxと表す)に対してプロットしたので、このグラフの傾きkは指数の値動き率の日歩(r_d、複利表示)ならびに年リターン(年利、r_y、複利表示)とは次の関係にある:
画像
  (式の部分をクリックすると拡大したものが出て見やすくなります)
なお、365.25は閏年も考慮した1年間の実日数である(金融機関営業日数ではなく、実日数でパラメータ値を定義する)。

 これらのグラフにおいて大事なのはグラフの傾き(つまりリターン)だけであり、切片に重要な意味は無い。そこで各曲線を任意に上下平行移動させて全体を見やすくしている。なお、グラフの傾きが大きい(右肩上がり)グラフが、収益率の高い金融商品指数である。傾きが負(右肩下がり)のグラフは、投資すれば損失が出ることを表す。
画像
   (図をクリックすると拡大図が出てきます)

 五つの金融商品指数の値動きグラフはなかなか複雑で、一筋縄で理解・表現するのは当然ながら困難である。とりあえず強引に、各プロットに最小二乗法で最適化した直線グラフ(一次回帰線)を引き、その傾き(図中に点線で示した)を(10-1-3)式で年リターンに換算すると、
  日債       4.8%
  外債       6.0%
  日株       5.7%
  外株       6.8%
  EM株      6.6%
  “平均外貨”  -3.2% (本文参照)
となる。

 なお、外国通貨と日本円の相対価値(つまり為替レート)の代表値として、ユーロ発足後はユーロ/\為替レートとUS$/\為替レートの平均値(“平均外貨”と呼ぶことにする)を使う(日銀が実質実効為替レートという有用な指数の計算をやめたので、こういうヘンテコリンな値で外貨の価値を測る、素人にはこんなことしか出来ない)。ユーロ発足以前に対してはUS$/\為替レートを使う。ただし、US$/\為替レートに定数をかけてユーロ発足前後における“平均外貨”の不連続を修正した。図10-1-1の茶色曲線はこのようにして決めた為替レート代表値の常用対数の経時変化を表し、下がれば円高である。この“平均外貨”は、日本円が変動為替制度入りした1972年以降現在までの長期平均で見れば(茶色点線の傾き)、3.2%の年率(複利)で円高・外貨安が進行していることになる。つまり“平均外貨”は日本円に対して長期平均では年率-3.2%の複利で減額していることになる。これは「平均外国」では日本よりも3.2%の年率だけ高い率で毎年毎年インフレが進んでいることを意味する。つまり、日本はインフレ押さえの優等生であるが、それが昂じて今(2010年)はデフレになっている。
 外貨預金をするときは、外貨表示の年利だけでなく、日本円から見た先進国“平均外貨”の年率-3.2%の価値下落を考慮しなければならない。外貨表示の金利が高くても、円に戻すとき先進国通貨ですら平均年利-3.2%の為替損失が待っている。一般に新興国のインフレ率は高く、その通貨の対円値下がり率は先進国平均通貨以上であろうと想像する。それ故、新興国通貨建ての外貨預金には為替損リスクが極めて大きいことを充分考慮しておくべきである。なお、前述の外債の平均年利+6.0%のリターンは日本円表示であって、“平均外貨”の価値下落は考慮済み(つまり、補正済み)の値である。

 図10-1-1をザッと概観すると、まず目に付くのが、五つの金融商品指数の全期間に亘る一次回帰線(点線)が互いにほぼ平行になっている、つまり、日株、先進外株、EM株、日債、先進外債のいずれに対して図10-1-1の全期間投資をしていてもほぼ同程度のリターンを手にできたということになる。通常、株式投資は高リスク高リターン、債券投資は低リスク低リターンとされている。ところが、素人が無料入手可能な金融商品指数の月次データを、入手できた全期間に亘って調べた結果(つまり図10-1-1)はこの常識には沿っていない。これについては二つの見方が出来る。1)株式投資と債券投資に関する常識は間違っている;2)現在債券バブルが進行していて、いつか債券バブル崩壊・債券価格暴落が起こって、株式投資と債券投資に関する常識の線に沿った状況になってゆくと考える。でもその時には債券投資は「低リターン、高リスク」の統計指数になってしまい、やはり株式投資と債券投資に関する常識は間違っていることになってしまう。これでは丸で言葉遊びだが、超長期に亘る運用の場合は債券投資のリターンも捨てたものでは無いのかもしれない。

 図10-1-1に戻って、まずピンク色グラフの日本株価指数であるが、1990年正月の資産バブル崩壊後は現在(2010年3月)に至るまで20年間に亘って、基本的に減価している。よって、Buy and Holdの運用を基本とする長期インデックス運用においては日本株式への投資は、当分の間は休んでおく方が良い。日本株への投資は、直接的な為替リスクは無く、関連する情報もよく解り、その点では魅力的であるが、値下がり基調のものに投資することはない。日本株の長期値上がり傾向が明らかになった時点で日本株式インデックス投信をポートフォリオに加えることにして、現時点では日本株式への投資は休んでおくのが賢明だと判断する。

 次に赤色グラフの日本債券(国債3/4程度、その他の債権1/4程度の構成比)への投資を考える。グラフ全体(1980年以降現在に至る30年間)に亘る長期平均値4.8%の年リターンは如何に何でも過大評価である。どう見ても現時点では2%以下の年リターンと評価するのが妥当である。グラフの最近10年間を見ると年リターン1%くらいで不規則変動幅少なく(つまり、低リスクで)時価が微増している。為替リスクが無く、時価の不規則変動幅(つまりリスク)が小さい、この2点が日本債券への投資の魅力であり、また株式指数との負相関ないし無相関ももっと大きな魅力である。一方で、現在(2010年3月)のような政策的超低金利・金融緩和時期の債券投資は、金融政策の正常化・金利上昇に転じるとき、あるいは日本政府の大規模財政赤字に対し日本政府や日本経済機構への信頼喪失が起こり始めると、既発債券価格の急落(金利急上昇)が起こり、大きな損失を被る。でもその時は銀行預金も危ない、なぜなら邦銀の預金運用先は日本国債が大きな割合を占めているとのことだから。多分、日本の経済も政治も大きく混乱する。日本債券に投資している間は、国内金利動向には充分注意しておくべきである。金利急上昇を感じたら即座に国内債券関連の投資信託の全てを売払うべきである。低リスク低リターンの筈の国内債券投資で大火傷を負うなんて全く馬鹿馬鹿しい。

 黄緑色グラフの先進外国株価指数(MSCI Kokusai 指数)は、およそ半分を米国株式が占めるので米国経済状況の影響が大きい。この指数は1969年から1979年までの10年間は横這い低迷したが、それ以降は比較的順調に上昇している。1979年以降の株価横這い低迷期間は長くて7年程度。5-7年間の低迷が有るとその後は順調に株価が回復している。リーマンショック金融危機の株価急落もスパイク状に半回復までは進んだ。今後ゆっくりと回復が進むのか、再度下落して二番底が来てから本格的回復に向かうのか、それは判らない。怖い目には会いたくない。

 青色グラフの新興国株式指数(MSCI Emerging Markets 指数)は、先進国株式指数によく似た、ただしより大げさな値動きをしている。株価横這い低迷期間は長くて7年程度。5-7年間の低迷の後は順調に株価が急回復している。リーマンショック金融危機の株価急落もスパイク状の半回復もMSCI Kokusai指数に倣いながら大げさな変動を示している。新興国株式指数投資はハイリスク・ハイリターンである。

 緑色グラフの海外先進国国債指数(Citigroup WGBI ex Japan指数、円表示)の値動きは、$/\と&ユーロ/\の平均為替レートの値動き平行に値動きしている。即ち、図10-1-1の緑線と茶色線がほぼ平行に変動している。これは海外先進国国債指数が為替レート変動に大きく支配されていることを示している。最近10年間は基本的に円安・外貨高が進んだので、外債リターンの算出値は本来の値以上に大きいと考えるべきであろう。リーマンショック金融危機後は急激な為替レートの揺り戻しが起きて円高が進行したが、まだ円高期間は短くて、海外先進国国債指数の平均リターンを形式的に計算すると過大な値を得る。今後、円高・外貨安傾向が続くと、海外先進国国債指数のリターンは本来の値よりも低迷することになる。

 日債、外債、外株、EM株(日株投資は、暫くの間は休む)の4つの指数の統計パラメータ(リターン、リスク、相関係数)を算出し、それらのパラメータを基に、統計理論に従って「効率的フロンティア」の方法(http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/50645560.html)を使って運用ポートフォリオを組み立てることになる。資産運用の全てがパラメータ値に、従ってパラメータをどう計算するかに懸かっている。繰り返すが、運用のすべてが統計パラメータ値に依存する。パラメータの計算法も含めて資産運用の方針を検討すると以下のようになる。

1)金融商品の値動きの予測などできない。米議会の採決結果、あるいは米大統領やFBI長官の発表や決断で世界の株価が大きく動くのを見ると、そして様々な株価予測が当ったり外れたりしてきたのを見ると、とてもではないが信頼できる予測など不可能。従って、なるべく機械的な運用指針を建てたい。そして金融商品の価格調査に多くに時間や手間を掛けたくはない。金融以外に、現役なら本務こそ大事であり、引退世代なら本を読んだり旅行をしたり等々もっとほかの事もしたいから。

2)長期データの単純平均からのパラメータ算出は信頼できない。例えば日株や日債の単純平均は極めて不適切なパラメータをもたらす。

3)過去に向かって減衰する統計的重みを付けて加重平均してパラメータを計算することも試みた(このブログの初版部分、つまり1章から7章まで)。重みは過去に向かっての経過日数の1次指数関数(w = a*exp(b*x), 半減期が一義的に定義できる関数)にした。半減期が長すぎると単純平均になる。短すぎると金融商品を高値で買い安値で売るデイトレーダになる。半減期は10年ないし30年くらいが適切。そうすると、算出されるリターンやリスクは妥当な値になる。しかし一方、バブル中の金融商品を過度に買い進んでひどい目にあう可能性が高い。なぜなら、これまでのバブルは5年前後の期間をかけて進行しているので、半減期20年でもバブルに乗りやすい(バブル進行と統計的重み減衰の位相がよく合うように見える)。そしてバブル崩壊後に早々と安値で金融商品を売る傾向が出そうである。

4)ポートフォリオ構築の適切さの検証は、ポートフォリオ構築指針を過去の各時点で適用してポートフォリオを構築し、それを1年毎に繰り返してリバランスする形で検証するべきである。このような正しい検証には膨大な手間がかかる。それをサボって、現時点の最適ポートフォリオに従って過去のある時点で投資を実施したと仮定し、そのアセットアロケーションを保ったままの評価額追跡するのでは適切な検証にはならない。将来を知ってこれに合わせた投資を過去に遡って実施していることになり、ポートフォリオ構築指針の誤った過大評価をもたらす。つまりこのブログの初版部分(1章から7章まで)で行った“ポートフォリオの検証”は、正しい検証にはなってない。

5)金融商品指数のリターン、リスク、相関係数などの統計パラメータは、平均期間10年くらいの単純移動平均法で計算すればいいのではなかろうか。10年なら過去の栄光に過剰に寄りかかることもなく、過去の失敗を過剰に引きずられることもなかろう。そして単純平均なら、指数関数型の減衰重み付き統計計算に較べたらバブルに乗りにくい。バブル期間が5年前後の例が多いことを考えると、単純平均する期間が10年というのが妥当であろうと考えて、これをエイヤッと気合で選ぶ。過去の長期データを使って、期間10年の移動平均法に基づく効率的ポートフォリオを検証してみる必要がある。

6)2010年現在の世界の株式総額においてEM株の占める割合は15%前後なので、金融工学における「市場ポートフォリオ」の考え方(http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/50657574.html)をある程度取り入れると、全株式投資金額のうちでEM株投資の割合は5%以上50%以下くらいの範囲内に限定するのがよかろうと判断する。

7)2010年現在、株安で円高の状況と推察されるので、5年以上の長期投資に関しては株式投資を(債券投資金額に較べて)やや過大な金額にし、海外物への投資を(国内物への投資金額に較べて)やや過大な金額にしておくのがよかろうと判断する。一方、5年以内の運用期間の短期投資については、現在が株高安や円高安の状況には配慮しない。なぜなら株高安、円高安などの傾向は数年間程度続く(そして何かの経済危機などのきっかけで激変する)のが普通だから。

7)債券投資の判断が難しい。外債投資は為替リスクをまともに受ける。国内債券も先進外国債券も含めて、日本も先進国も金融緩和・低金利なので今は既発行の債券価格が高値である。そして今(2010年現在)は国内外ともインフレ懸念が少しだが台頭し始めている。S&P社の日本国債や英国国債の格付けに対して格下げ警告が出されたとの記事も出てきた。しかし、国内債券は最も安全と考えられる資産運用先である。債券投資の基本や適・不適の判断基準が決まらない。 

9)資産運用に百点満点の方法など無い。そして資産を株式や債券の金融商品で運用する限り、評価額の元本割れは覚悟すべきである。運用成績はまあまあの線で満足すべきであろう。運用資産の現金化に際して、元本割れを避け、定期預金よりは良い運用年利を手にすることを目指す。多分、運用指針をコロコロ変えると損失を被る可能性が高まる。運用で損失を被ったら、それは勉強不足の結果としてそのまま受入れる(つまり諦めて、その状況を新しい出発点とする)べきで、損失を取り戻そうとしない方がよい。損失を取り返そうとすることはハイリターンを狙うことと同義であり、当然の結果としてハイリスクを背負い込んで次なる失敗へと進んでしまう。

10)ポートフォリオを組む、あるいは金融商品に投資すると言うことは、“何らかの形で将来を予測する”と言うことと同等である。そしてここで採択している“将来予測”は、金融商品の値動きは正規分布の統計学に従うと予測し、その上で、採択する統計パラメータ(リターン、リスク、相関係数)計算法が実行可能な最良予測法であると判断したことになる。厳密な将来予測など人間には出来ないという意味で、ここで考えるポートフォリオも、他の様々な予測(個別の株式値動き予測から先端金融工学に基づく予測まで)に基づくポートフォリオの中の一つに過ぎない。こう理解していると、頑固に失敗に向かって進むことを避けられる(自戒)。

11)投資の原則は、投資期間によって大きく変わる。デイトレーディングは別としても、投資期間3ヶ月・半年くらいの超短期投資、投資期間3年前後の中期投資、投資期間10年以上の超長期投資で投資原則は全く異なるように感じる。特に投資期間3ヶ月・半年くらいの短期投資においては、値上りが見込めるときにかなり大胆に投資を進め、数ヶ月間程度の保有で1割・2割程度の利益が出たら金融商品を売って利益を確定して次の機会を待つ。このような投資スタイルは短気な人には向いており、投資指南の雑誌、連載記事、有料メールなどはこのスタイルになることが多い、さもなければ読者を惹きつける記事を次々と書き続けることが出来ない。投資期間3年以上の中長期投資で余り手間暇を掛けずゆっくりとした資産運用を目指す場合、短期投資のスタイルに惑わされた金融商品売買を混ぜ込むと、運用方針のふらつきにより大きな損失を被る。
(2010/1/27/UP)(2010/1/29/手直し)(2010/4/27/本文改訂と図の更新)(2010/8/8/小修正)





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