(10-11) 生涯収支概算表作成と運用先の選択

 前項の表10-10-1から判るように、高リターンのポートフォリオへの投資は短期間運用では元本割れの可能性が大きいが(幸運なら短期で大儲けの可能性もある)、長期間運用すれば元本割れの可能性は低下してゆき、平均的な高リターンを手にできる。短期間投資でも元本割れの可能性の低いポートフォリオの期待リターンは低い。そこで保有資金を、寝かせておける期間に応じて分割して運用ポートフォリオを変えることになる。このためには、家族の全ての収入と支出を1年単位で纏めた時系列表(これをここでは「生涯収支概算表」と呼ぶ;マネーフロー表と呼んだこともある)を作成しなければならない。

 生涯収支概算表の最左欄は家族の年齢欄になる。家族の年齢に応じて様々な家族史が築かれ、そしてお金が流れてゆくからである。生涯収支概算表の作成は大変であるが、取り敢えず大まかにエイヤッと山勘で、年収は何歳頃幾らと予測する。年齢別サラリーマンの平均年収表などもネット上で公開されている。家の購入やその補修は何時で予算はこの位、家族旅行や帰省の予算推定、車の買換えや車検費用、大型家電や給湯器・調理加熱器具の買換え費用、家屋の改装費用、子供の教育費の予算推定、子供の結婚資金援助の時期と予算など、決めようのない予算の時期と金額を強引に表に記入する。その後は老後生活費が続く。平均的な老後生活費の統計データもネット上で見つかるので参考になる。生涯収支概算表の最後は自分自身も含めて夫婦の介護・入院費と葬式費用で終わりになる。それ故、死亡予定年も書き込む。このために便利は平均余命表がインターネット上に公開されている。生涯収支概算表には、気付く度に修正を加えてゆく。生涯収支概算表が生きている間に完全に出来上がるということは有り得ない、常に改訂してゆくことになる。そして“死亡予定時期”(或いは更に余分に5年の長生き期間)以前に概算書の保有資産金額欄が赤字になったら、予定生活レベルを引き締めて、赤字の出ないプランにしなければならない。

 資産運用先決定の第一歩として、失業や大病・事故などに備える“生活防衛資金”(木村剛著、「投資戦略の発想2008」より)の金額を決める。生活防衛資金の金額として、直近2年分の全支出金額(生活費、通常の娯楽費、まだ残っているならローン返済なども全てを含める。年金受給者の場合は前記の全支出金額から受取る年金額を差引く。年金には“失職”が無いので差引いてよい)を算出する。この金額の預金を常に保有すればまず大丈夫ということらしい。これは失職(リストラ、勤務先倒産など)や大病という非常事態になって収入が途絶えたときに慌ててしまって失敗しない為に備えて保有しておくお金であり、万一の非常事態乗り切り資金である。この金額のお金は6ヶ月から1年位の普通定期預金(仕組預金や新型預金などではない)の自動継続で常に保有しておく。この生活防衛資金は、平常時には保有しているだけで、使うことはない。使うのは交通事故や大病、失業や災害時などの緊急事態に巻き込まれたときのみである。計算してみるまでもなくこの金額はかなり大きい。大抵の場合は年収の2倍から2.5倍位になる。

 次に、今後2年以内の“貯蓄取崩額”を査定する。車の購入や家屋補修など大きな買物の予定金額、生活費不足の補充金額(年金生活者や下宿中の大学生が2人以上の現役サラリーマンにはこの金額が出てくる)を積算し、その予算金額分の預金を準備する(つまりリスク金融商品の売却やボーナスの貯め置きなど)。通常の状態の現役サラリーマンには“貯蓄取崩額”は零であり、生活運転資金として一ケ月分か二ケ月分の生活費位が普通預金で置いてあれば充分である。この貯蓄取崩額は実際に使ってゆく。

 以上を纏めると、預金(長くて1年定期預金、主として6ヶ月定期預金を使う)で保有すべき金額は、生活防衛資金と今後2年以内の貯蓄取崩し見込額の合計金額ということになる。

 次に、住宅ローン、自動車ローンなどがあれば、まずこれらローンを全額返済する。複利計算の効用は、投資の時には自分自身の資産増加に鼠算で(数学用語では指数関数的に)大変有利に働く。その裏返しで、借金は複利で大きな負担をもたらす。ローンの金利は必ず国債の金利よりも高い。国債よりも高い金利のローンを抱えながら、国債に投資をするのは自己矛盾である。国債(あるいはその代替金融商品)への投資をせずに株式投資だけするのは無謀であり、将来、巨額損失を抱え込む。よって結論は、国債よりも高い金利のローンは、投資を始める前にまず返済すべきである。

 上記の生活防衛資金と貯蓄取崩予定金額の預金を確保し、ローンを完済したら、生涯収支概算表に照らして手持ち資金を寝かせておける期間別にリスク商品購入金額を割り振る。全資産を表10-11-1の様に割り振る。
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     (表をクリックすると拡大された読みやすい表が出てきます)

 なお、2011/7/6現在、表10-11-1に替わって、表20-11-1、表20-11-2、図20-11-3 (http://williberich.at.webry.info/201107/article_1.html)の方が良いと考えてます。

 いざ資産運用を表10-11-1に従って進めようとしても、一括払い特別養老保険、新型定期預金、個人向け国債、外貨預金、社債や外国債券、国内個別株式など既に購入保有している金融商品があるときはどうするかを考える。

 個人向け国債は、5年物は購入の1年後から、10年ものは2年後からは何時でも換金できる。従ってそのまま保有して「生活防衛費」の「銀行定期預金」の一部だと考えて、表10-11-1の管理下に入れておけばよい。名称は“国債”であるが金融商品としての性格は、市場価格形成が無くて元本割れが無く、一定期間経過後は換金随時可能など、定期預金そのもの(ただし、単利)である。

 上記金融商品のうち個人向け国債以外のものは、“非正規運用資産”とでも名付けて別枠管理するのがよいと思う。一括払い特別養老保険と新型定期預金は、換金できなかったり或いは換金を急ぐと大きな損失が出る場合がある。可能なら満期まで待って換金し、その後は表10-11-1に従った運用に廻せばよいと考える。

 国内や海外の個別債券の市場価格変動は債券インデックスのそれより大きいので、表10-11-1の債券インデックスファンドの一部として読み替えると運用に失敗する。個別債券の途中売却は、素人にとっては価格決定過程が不透明で精神衛生にも悪い。結局個別債券は別枠管理で満期まで保有するのが無難だと思う。また、個別の国内株式のリスク(価格変動幅)は国内株式インデックスよりも大きい。したがって個別株式を株式インデックスと読み替えると、これもまた運用失敗に結びつく。別枠管理しておいて適当な時期に売却して表10-11-1の運用資金にするのが良い。

 高利に見える外貨預金も円に戻すときの為替リスクが大変大きく、そして為替リスクに見合うほど高金利でもない。つまり、外貨預金をしたことは運用としては基本的に失敗なので、少々損失が出ていても、外貨預金の危険性の勉強代だったと諦めて解約換金して表10-11-1の運用資金にする方が良いと思う。

 こうして生涯収支概算表を作り、運用益も含めた収支を調べて表に纏めると、自分自身の死去のときの子供への相続金額が概算できる。相続税を払わなくても良いように、早いうちから贈与税の掛からない範囲で計画的に贈与を進めることも可能になる。
 老後資金や贈与資金に充分以上の余裕が有るときは寄付も考えてみると良いと思う。寄付先の選択においては、寄付金受取機関が収支決算書を、見つけやすく且つ判り易く公開していることを基準にすると良い。全ての活動は収支決算書に現れる。趣意書、事業計画、事業報告はどのようにでも書けるが(だからと言って、無意味であると主張しているのでは有りません;念のため)、収支決算書は誤魔化せない。その意味で、見つけやすくて判り易い収支決算書は真面目な機関の選択に大変有用である。

 生涯収支概算表を基に預金、短期・中期・長期・超長期ポートフォリオそれぞれへの、毎年の配分金額が算出できる。さらにそれを基に預金金額、ならびに内債、外債、外株、EM株への、毎年の投資金額も計算できる。そうすると、年1回か2回のリバランスも簡単に出来ることになる。リバランスのときは、各ファンドの評価額を調べて集計し、生涯収支概算表から算出した内債、外債、外株、EM株への投資金額と較べて、ズレが大きければファンドの売買を行ってリバランスすることになる。

 ここに書いたような、現金化に際して元本割れのない運用を目指したとき、定期預金と内外の債券インデックスファンドへの投資金額比率が驚くほど大きく、株式インデックスファンドへの投資比率は小さくなる。かなり大きな金額の資産を持たないと長期間の評価額元本割れに耐えられず、株式投資中心の高リターン・高リスクのポートフォリオへの投資はできない。「持つものは与えられてあり余り、持たぬものは持っているものも取られよう」という“セント・マシューズ現象”(新約聖書 マタイ伝 25章29節)にまたまた出会った。
(2010/6/7/UP) (2011/7/6/Update)

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