(10-18)  2011年1月末時点の運用期間別ポートフォリオ

 2011年2月始の時点で世の中を見ると、世界景気の二番底を避けることが出来たような雰囲気である。また一方、チュニジアやエジプトなど北アフリカやアラビア半島のアラブ圏で政変が連発し、世界が大きく動いている。北アフリカの政変は、多分、リーマンショック対策で先進各国政府・中央銀行が供給した多量のお金が危機回避の兆しと共に動き始め、結果として生活必需品のインフレが進み始めたようである。すると経済基盤の弱い国ではインフレに耐え切れずに政変が始まった。動き始めたお金は株式などの金融商品にも回って、株価上昇なども始まり、インフレ進行で債券価格は下がる(利率が上がる)であろう。

 2010年9月末時点の金融商品クラスのインデックスの統計パラメータを計算してからまだ4ヶ月しか経ってないが、世界の変化に遅れないように運用のアセットアロケーションを見直す。金融商品指数の統計パラメータを2011年1月末までの月次データに基づいて計算しなおした。計算方法は10-5節や10-15節で行ったのと同じ方法を使う。統計パラメータ算出に使ったインデックスデータの対数の時系列データ(2011年1月末までの月次データ)のプロットを図10-18-1に示す。

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 これらのプロットに基づいて計算した各指数の統計パラメータを表10-18-1に纏めた。

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 今回計算のパラメータも含めて、各金融商品指数の統計パラメータ(リターンとリスク)がどのように変化してきたかを図10-18-2に示した。

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 他のパラメータの経時変化は比較的小さいのに、外債(即ち、先進諸外国の国債への投資、Citigroup World Government Bond Index, Net値に投資信託の信託報酬分も補正)のリターンが2010年5月(4.75%、図10-18-2の外債の黒丸)、2010年10月(4.24%、外債の赤四角)、2011年1月(3.79%、外債の黄緑三角)と急速に低下している。外債リターン低下傾向の原因は、図10-18-1のグラフから、“円安の揺り戻し”としての円高方向への為替変動であると判る。つまり、図10-18-1のグラフにおいて、外債指数(の対数)の暗緑色プロットと平均外貨為替{ ($/\ + €/\)/2 }(の対数)の茶色プロットが併行していて、外債の日本円での価格変動の大半は為替変動に由来することが判る。そして、1999年末以降リーマンショックの2008年8月までの7年半に亘って為替(図10-18-2、茶色グラフ)は円安方向に進み続けた。リーマンショック以後は、過剰な円安の揺り戻しとして円高方向に為替変動が進んでいる。図10-18-2の為替変動プロット(茶色実線グラフ)とその一次回帰線(茶色点線プロット;これが“順当な為替レート”であると推定)を較べると、①円高や円安の進行は5年ないし10年程度のタイムスケールで過剰に進み、その後に逆方向の為替レート変動がまた5年ないし10年程度のタイムスケールで過剰に進むといった傾向をもつ;②茶色の線と点線を較べると、2011年2月現在の為替レートはやや過剰円安である。以上の2点から、今後数年に亘って円高方向への為替変動が続く可能性が高い。

 例えば、2010年5月時点で評価した外債指数の高いリターン4.75%は、2000年初から2008年8月まで続いた円安進行とその余波を反映して過剰に高いのであって、今後暫くの間は外債リターン(日本円でのリターン)の低下が進み、日本国債投資の平均的リターン(1%から2%程度)に近づく可能性が高い。つまり、外債投資のリターンはもっと低下し、2年・3年程度の短期投資なら損失を出す可能性が高い。つまり、今後数年間に亘って外債指数(即ち既発外債の日本円価格)の低下が進む可能性が高いと考える。

 表10-18-1に示した統計パラメータを使い、10-6節から10-10節までの各節や10-16節で採択したのと類似した基準に従って、短期、中期、長期、超長期の運用期間それぞれに適したアセットアロケーションを計算する。

 まず、短期運用(4年未満)に適したポートフォリオの計算方法は、従来の10-6節で採用した方法とは異なった方法を使う。即ち、短期ポートフォリオは、何の条件も付けずにr/σ比が最大になるアセットアロケーションを探すことによって組み立てる。A-7節で見たように、無元本割必要年数は(σ/r)比の二乗に比例して長くなるので、その逆数(r/σ)が最大になるポートフォリオが短期間投資に最適のポートフォリオとなる。なぜなら、短期ポートフォリオの最重要ポイントは、元本割れ回避に必要な期間が最短になっていることなのだから。

 表10-18-1の統計パラメータに基づき、ネットネーム「タロット」氏が公開している「効率的フロンティア計算シートVer.1.1.1」(http://tarot-mpt.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/_ver110_a933.html)にほんの少し手を加えたものを使うと、短期運用ポートフォリオとして、
   日債:外債:日株:外株:EM株 = 88%:3%:1%:5%:3%
   期待リターン=1.95%、期待リスク=2.73%、
   (期待リターン)/(期待リスク)の比=0.7129
を得る。このポートフォリオでの運用において元本割れが実質的に起きなくなる為に必要な運用期間(元本割れ確率15.5%以下になる期間;1.15σ以上の負方向へのブレ)は2.6年である。つまり丸3年の運用期間を経過すれば、不運でも元本は確保できる(A-7節参照)。勿論、普通の運なら年利約2%の運用成果を得るが、このリターンは現在(2010年2月)の銀行定期預金や個人向け国債の金利よりもかなり高い。なお、興味深い点は、リターンが負であるにも拘らず、短期ポートフォリオにおける日株への投資が1%加わっている点である。これは、短期ポートフォリオの主要運用先(88%)の日債に対して日株が負の相関を示すので、少しの日株投資はポートフォリオ全体のリスク軽減に役立っているためである。

 短期ポートフォリオの元本割れ無し運用に必要な期間が2.6年なので、短期ポートフォリオで運用するのは、満3年以上で4年未満の1年間に使う見込みの金額にする。従って、満3年以内に使う予定のお金と緊急事態に備えるお金(“生活防衛費”、2年分の全支出金額位が適当、年金受給者はこの金額から2年分の年金を差引いた金額;生活防衛費の“2年分”は目安金額算出のための年数で、運用期間には無関係;10-11節参照)を預貯金(普通定期に限る)、証券会社が扱う円建MMFやMRFで保有する。また、換金可能期に入った個人向け国債もこの“預金”(無リスク金融商品)と考えてよい。

 従来は短期ポートフォリオで運用するのは、満2年以上満4年未満の2年間に使う予定の金額としていたが、今回はこれを1年間分に半減させた。短期ポートフォリオの主要部分(88%)は日債(主要部分は日本国債)投資であり、今後は国債の累積発行額増大の余波として、既発国債価格下落(国債金利上昇)の可能性があるので、日債への投資金額を小さくしておきたいという“思い”も含めた。

 次に中期運用向けポートフォリオとして、実質的に元本割れ無しになる運用年数が4年、それ故r/σ比が0.575になるポートフォリオの中でリターン最大のものを探す。そのようなアセットアロケーションとして、
   日債:外債:日株:外株:EM株 = 60%:15%:0%:13%:12%
   期待リターン=3.51%、期待リスク=6.14%、
   (期待リターン)/(期待リスク)の比=0.5713
を得る。このポートフォリオへの運用が元本割れ無しになるのに必要な期間(元本割れ確率15.5%以下になる期間;1.15σ以上の負方向へのブレ)は4.0年である。丸4年の運用期間を経過すれば、多少不運でも元本は確保できる(A-7節参照)筈である。先にも述べたように、2011年から数年間は円高方向への為替変動が基調になると考えると、15%の外債投資の半分くらいは定期預金に換えておく方が良いと考える。その結果、運用期間4年ないし5年向けの中期ポートフォリオとしては
   日債:外債:日株:外株:EM株:定期預金 
         = 60%:8%:0%:13%:12%:7%
   期待リターン=3.5 1%、期待リスク=6.14%、
   元本割れ回避必要期間=4.0年
ということになる。

 次に超長期ポートフォリオを組み立てる。10-8節や10-16節と同様に、まず株式(日株、外株、EM株)だけで組み立てたr/σ比最大のアセットアロケーションを探と、日株:外株:EM株 = 0%:62%:38%、 リターン=8.21%、リスク=20.16%、r/σ比=0.4071 と求まる。次に、全金融商品クラスを組み合わせて、この株式のみから成るアセットアロケーションのリターン8.21%を与えて且つr/σ比が最大となるアセットアロケーションを探索する。つまり、株式のみで得られるベストなポートフォリオのリターン8.21%を確保しつつ、この株式オンリーのポートフォリオに債券投資を混ぜ込んでリスク低減を図るという筋書きである。こうして得られたアセットアロケーションは、超長期運用に適したポートフォリオであると思われる。具体的には、
日債:外債:日株:外株:EM株 = 3%:6%:0%:36%:55%
期待リターン=8.34%、期待リスク=20.34%、r/σ=0.4100、元本割れ回避必要期間=7.5年
ということになる。このポートフォリオは8年以上の運用期間に向いている。今回の計算においては、日債も外債もリターンが低下しているので最適混入比率が低下し、結果として債券投資混入によるリスク低下の幅も小さい。債券投資混入によるr/σ改善は極めて僅かである(株のみでr/σ=0.4071、これに債券投資を含めてもr/σ=0.4100、実質的には差が無い)。

 最後に長期運用向けポートフォリオを探す。10-9節や10-16節に倣って、全債券投資分率(日債+外債)を中期ポートフォリオの計算値75%と超長期ポートフォリオの計算値9%の平均値である42%にするという条件下でr/σ比が最大になるアセットアロケーションを探すと、
   日債:外債:日株:外株:EM株 = 36%:5%:0%:40%:19%
   期待リターン=5.42%、期待リスク=11.82%、
   元本割れ回避必要期間=6.2年
ということになる。このポートフォリオは6年ないし8年の運用期間に向いている。

 以上の結果を纏めると運用期間別ポートフォリオは表10-18-2の様になる。結局のところ、外債投資と日株投資の比率はほぼ零となり、日債、外株(先進外国株)とEM株の三者の組合せだけでポートフォリオを組むことになってしまった。

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 この表の「適した運用」欄の既述はいざとなると判り難いので、別の説明を書く。まず、生涯収支概算表(10-11節)を作り、これに基づいて預金・運用資産から取崩す金額を予定時期別に整理する。そして、取崩予定時期になるまではそのお金の“待ち期間”に合わせたポートフォリオで運用する。「適した運用」欄の年数はその“待ち期間”であって、図10-18-3に示したとおりである。なお、年金生活者は短期から超長期までの全ポートフォリオで運用することになるが(超長期ポートフォリオ運用にまで資産を廻せる人は幸運である)、現役バリバリの人は超長期ポートフォリオだけしか使わないということになる。

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 これまでに(2010/5、2010/10、2011/2の3回)計算してきた長期ポートフォリオのアセットアロケーションのリバランス時期(つまりポートフォリオ計算時期)への依存性を図10-18-4に示した。

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 図10-18-4に見られる最も顕著な投資比率変化は外債投資に現れた。2010年5月時点の計算では、長期ポートフォリオにおける外債投資比率の最適値は30%と算出されていたが、2010年10月には13%、2011年2月には0%となった。外債投資比率の最適値の計算値は計算時期が1年足らず異なっただけで、急減少した。この激変は全く予想外で驚く。長期運用ポートフォリオの計算においては、全債券投資比率が中期ポートフォリオの設定値70%と超長期ポートフォリオの計算値の平均に固定されているので、外債投資比率減少は日債投資比率増大をもたらしやすいと推測している。外債投資比率減少の原因は、既述のように、為替レートの変化が円高方向に進んで、外債投資のリターンが低下したことの反映である。

 しかし、インデックス運用のアセットアロケーションが、たった1年の間に20%以上も変化するのは根本的におかしい。ポートフォリオの構成比がこんなに大きく変化していると、リバランスの度に高値で買ったものを低価格で売るということを繰り返してしまい、リバランスの趣旨が全く崩れている。この節での検討はもう一つ大事なことを示している。すなわち、ポートフォリオ構築において、各金融資産クラス指数値の統計パラメータ(リターン、リスク、相関係数)の小さい差が、投資配分比決定に大変大きな違いをもたらすということである。図10-18-2に示されているリターン・リスクのプロットの小さな差が、図10-18-4のような投資先配分比の大きな差をもたらすとは、全く驚く。ポートフォリオを構築のとき、どういう立場の誰が計算した統計パラメータを使うのか、これがインデックス運用におけるキーであると思う。

 長期に亘る外貨預金が為替レート変動まで考慮すると無駄な(あるいは無意味な)資産運用であるように、インデックス運用(インデックス運用は長期運用が基本)における外債投資は無駄なのかもしれない。素人が個人的に努力しても外債インデックス値の長期時系列データ収集は十数年分程度であり、円高・円安変動の1サイクルが10年から20年なので、この程度のデータ収集では信頼できる統計パラメータ算出には不十分である。外債投資の評価を適切にできないという意味で、外債指数(Citigroup World Government Bond Index)の長期時系列データが公開されてないのは本当に残念である。そして為替レート変動の理解は本当に難しく、為替変動のリスクはかなり大きい。基軸通貨国の国民(米国民)は、自国の経済規模が大きいこともあって、このリスクを少し被るだけで資産運用が出来るので本当に幸運である。

 為替レート変動とポートフォリオにおける外債投資割合激変の扱いについては、項を改めて再検討することにして、取り敢えずこの節を終える。この問題が解決するまでは、外債投資の比率を低めに抑えておくのがベターと考える。
(2010/2/5/UP)(2011/2/6/手直し)(2011/2/7/手直し)

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