(20-4) 対数正規分布に基づくポートフォリオ構築方法

要旨: 対数正規分布に基づくポートフォリオ構築は対数の世界の話であるにもかかわらず、真数の世界と同じ式で分散投資を推計しても、有効数字1桁以上の信頼度で近似計算できる。

 各金融商品個別の価格変動の“倍率 (1 + r) の対数”を確率変数とする統計パラメータ(年平均値μ、年標準偏差σ、相関係数ρ)に基づいて分散投資したポートフォリオの運用成績の期待値を推計することに進む。ここに r は利率であって、大抵の場合は年利を表す。二つの金融商品AとBに分率 XA と XB (XA + XB = 1、 0 < XA, XB < 1)で分散投資したポートフォリオ(ポートフォリオABと呼ぶ)の運用を考える。ポートフォリオABの運用成績の利率を R と表し、運用成績の倍率表示の対数 log(1 + R) で運用を評価する(何時ものように、ここでも log は常用対数を意味する)。log(1 + R) の期待値と標準偏差をμ、σと表すことにしておこう。

 ところで、総額1000円の資金を運用するときに、「全資金の千円の対数(正確に言えば、千円を1円の千倍と考えて対数の変数から単位を消去しておくべきだが、面倒なら単位を無視して考えるという便法でもよい) log(1000) = 3 を Aへの投資金額の対数 1 とBへの投資金額の対数 2 に分けて分散投資する」というような馬鹿なことはできない。そもそもこの「 」内の文章の意味は不可解である。それにも関わらず、そういう、対数の世界の中に留まったままで分散投資を考える。関与する全ての運用の利率が 1 に較べて充分小さければ、log[(1 + r)^X] = X×r×log(e) という近似式(対数のテーラー展開で、変数 r に関する2次以上の項を無視)を使って、この非常識ないし間違いを少し助けることから出発しようという魂胆である。なお、log(e) = log(2.71828) = 0.4343 は、常用対数の微積分に付きまとう定数である。

 さて、運用による資産増加倍率の対数、
  log[(運用後の金額)/(運用前の金額)] = log[1 + (利率)]
で運用を考える世界に盲目的にどっぷりと入ってポートフォリオABの運用成績を形式的に考えると、
  log(1 + R) = XA×log(1 + rA) + XB×log(1 + rB) ---- (20-4-1)
と書くこともありうる。この(20-4-1)式は取り扱おうとする事実・現実と数式とを繋ぐ論理の部分で間違っている。それにも拘らず、(20-4-1)式がこの節の出発の式である。ここに、 rA と rB は金融商品AとBの利率である。繰り返しになるが、この式が分散投資の正しい式でないことは上で説明したとおりである。次に r が 1 に較べて充分小さい(|r| << 1)とする。当然 R も 1 に較べて充分小さい。このとき、(20-4-1)式の両辺に対数のテーラー展開に基づく近似式を使うと
  R = XA×rA + XB×rB ---- (20-4-2)
となる。何と、この(20-4-2)式は、現実の世界(真数の世界)における分散投資ポートフォリオABの運用利率 R を計算する式になっている。よって次のことがわかる:「利率 r が 1 に較べて充分小さいなら、倍率対数を使った分散投資の運用成績期待値を“形式的に”計算すれば、現実の世界の(つまり真数における)運用成績期待値の対数表現が近似計算できる」。

 従って、金融商品AとBに分率 XA と XB で分散投資したときの運用成績推計について、対数正規分布で考えたときの(すなわち、倍率対数で考えたときの)運用成績 log(1 + R) の平均値μと標準偏差σの期待値を
 μ = XA×μA + XB×μB ---- (20-4-3)
 σ^2 = (XA×σA)^2 + (XB×σB)^2 + 2×XA×XB×ρ ----  (20-4-4)
によって近似計算できる。ここにρは金融商品AとBの値動きの倍率の対数の間の相関係数である。これら二つの近似計算は金融商品AとBそれぞれの利率 rA と rB が共に 1 に較べて充分小さいときには良い近似である。元本割れ回避に必要な運用年数の計算においては R の期待値を 0 付近において考えていることになる。従って、この近似式成立条件は元本割れ近傍での計算、例えば元本割れ無しになるのに必要な運用年数の計算など、においては充分満足されていることになる。これは大変有用であると考える。なぜなら、資産運用において最も大切なことは運用期間を終えた金融商品の現金化のとき元本割れしてないことであって、年利5%で運用できたかそれとも5.5%で運用できたかという差はその次の問題なのだから。

 この節を終える前に、年利rがそこそこ大きいとき、log(1 + r) = r×0.4343 の近似がどの程度の誤差をもたらすか調べておく。年利20%の金融商品にはインデックス運用の世界ではめったに目にすることのない高利率である。この年利20%、つまり r = 0.2 のとき、近似による誤差は
r×0.4343 - log(1 + 0.2) = 0.0077
である。この誤差は倍率対数の真の値 log(1 + 0.2) = 0.0792 の10%程度であり、r = 0.2 というかなり大きな利率のときですらこの近似計算結果には有効数字1桁という信頼度がある。

 以上を纏めると、対数正規分布が対数の世界の話であるにもかかわらず、真数の世界と同じ式を使って分散投資を扱っても有効数字1桁以上の信頼度で近似計算できることが保障されている。このことは、真数正規分布に基づくポートフォリオ構築に利用するために作られたアプリケーションソフトを、そのまま対数正規分布に基づくポートフォリオ構築に利用できることを意味している。具体的には、ネットネーム=タロット氏が公開している便利な「効率的フロンティア計算シートVer.1.1.1」(
http://tarot-mpt.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/_ver110_a933.html)を対数正規分布に基づくポートフォリオ構築にもそのまま使える。

 また観点を変えると、一般の人(資産規模が大きくはない、借金しての投資はない)の債券投資と株式投資を中心とするインデックス運用において、年利の真数正規分布に基づくポートフォリオ構築とその成果推計は、年間増額倍率の対数正規分布に基づくポートフォリオ構築・推計に対して充分良い近似であることが判る。どちらでも使い易い方ないし好みに合う方をを使えば良いと考えられる。なぜなら、一般の人の資産運用に有効数字一桁半以上の精度を求めることは考えられない。
(2011/3/17/UP)

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