(20-18) ハイリスク・ハイリターンと長期投資―その1

 ハイリスク・ハイリターンのポートフォリオに投資してハイリターンを手に入れるには長期運用が不可欠である。このことを先ず数学として示し、次に(20-14)節で構築した中期ポートフォリオへの投資の元利合計の経時変化を追うことによって示そう。

 あるポートフォリオのlog(1年運用の元利合計/元本) の平均値と標準偏差をμとσと表す(具体的な計算では、対数正規分布を仮定する)。このポートフォリオに投資して n 年間運用することを多数回繰り返して(思考実験)測定した log(n年運用の元利合計/元本) の平均値と標準偏差をμ(n)とσ(n)と表すと、酔歩の理論(Random Walk Theory)によると,次の関係が成り立つ:
  μ(n) = μ × n ---------- (20-18-1)
  σ(n) = σ × √n -------- (20-18-2)
これを使うと、ある1回の投資のlog(n年運用の元利合計/元本) をx(n) と表すとき、x(n) の値が
  μ(n) – z × σ(n) < x(n) < μ(n) + z × σ(n) ----- (20-18-3)
の範囲に入る確率は、パラメータ z の値に依存して、次のようになる:
  z = 2   確率95%(5%確率で範囲外になる)
  z = 3   確率99.7%(0.3%確率で範囲外になる)。
そして最も尤もらしい x(n) の値は勿論 μ(n) であり、これは期待値と呼ばれる。

 ここ以降では、z = 2 を選んで話を進める。(20-18-3) 式に (20-18-1)式と(20-18-2)式を代入した後、両辺を n で割ると、
  μ – (2 × σ/√n) < x(n)/n < μ + (2 × σ/√n) ------ (20-18-4)
となる。この不等式は、n が充分大きいとき(すなわち長期間運用)、x(n)/n [これは、n 年間運用における1年当たりの log(元利合計/元本) を表している] が μ に収束することを示している。すなわち、「どんなに大きなリスク(σ)をもつポートフォリオであれ、充分長い期間投資すると、そのポートフォリオのリターン(μ)を手にすることができる」ことを示している。(20-18-4) 式の根底をなす仮定は、「ポートフォリオの価格変動が正規分布(対数正規分布でも、真数正規分布でもよい)に従って出現する」ことだけである。ただし、評価額が“μ に収束する”には驚くほど長い期間を要する。

 そこで、現実の運用実績(運用後の元利合計評価額の実績)と上の(20-18-4)式の関係を具体的に見ておく。数式や命題を現実に即して具体的に体得しておくことは、資産運用に限らず、いつでも大事である。ここでは具体例として、(20-14)節の表20-14-2に示した中期ポートフォリオ(日債:外債:日株:外株:EM株=60:31:0:7:2; μ=0.0120、σ=0.0176)に100万円を一括投資し、その後はリバランスもせずに投資信託を購入時の口数のまま保有し続けた場合を取り上げる。様々な時期の一括投資の評価額推移を調べ、(20-18-4)式 の範囲と較べ、その結果を図20-18-1に示した。
画像
   (図をクリックすると拡大図が出てきます)

 まず図20-18-1全体を眺めて次のことが判る:評価額実績線は(1)95%出現確率範囲の中でゆっくりと大きくうねっている、(2)ゆったりとしたうねりの上に小刻みな小さい幅の上下動が乗っている、(3)投資直後の数年間の評価額は95%出現確率範囲を少しはみ出すこともあるが、その後は95%確率範囲内に収まる、(4)バブル崩壊直前の株価頂上付近での投資の悪い成績は長く尾を引く。

 上記の(3)の特徴は、不運な投資であっても長期運用を続けていると元本割れを克服し、ある程度の収益を上げることを示している。極めて稀にしか起きないような不運な例である2007/12/31の一括投資(青実線、米サブプライムローンのバブル絶頂時の投資)の評価額ですら、95%出現確率の下限の緑実線に沿って推移している。アジア通貨危機による世界の株価暴落直前の1998/7/31の投資の評価額(桃色実線)も投資直後2年余りの間は95%確率下限ライン以下に下がっていたが、投資後2年半を経過すると、評価額は95%出現確率範囲内に入っている。

 上記の(4)の特徴については、投資直後にバブル崩壊の暴落に巻き込まれたら(図20-18-1の桃実線と青実線)、それは投資元本の減額と同等であり、逆に金融危機のどん底での投資(茶実線)は、投資直後の株価回復が元本増額と同等の効果をもたらし、いずれも長く尾を引き、解消されることはない。ある時点で、その時点がバブル絶頂期なのか(逆の場合には、経済危機の本当の底なのか)、その時点では判断できない。従って、バブル絶頂期の不利な投資を避ける無難な方法は、積み立て投資によって長期間にわたり投資時期の分散を図って、平均的な収益を狙うと言うことになる。たとえば、図20-18-1の1998年1月末投資(桃実線)に時から1999年11月末投資(茶実線)の時までの約2年間にわたって毎月同じ金額の投資を続けていれば、その後の運用成績は桃実線と茶実線の平均(つまり緑破線で示された平均的な評価額)の周りを推移している筈である。

 最後に図20-18-1から読み取るべき重要な点は、運用期間がある程度以上(中期ポートフォリオの場合は5―6年)になると、評価額の実績は95%出現確率範囲内に入っている点である。つまり(20-18-4)の不等式が示すような結果になっていて、不運な投資でも長期運用によりある程度の収益をあげることができる。同時に、通常考えられる運用期間(中期ポートフォリオでは7―8年)では、投資時期の運・不運によって収益は大きく異なる。しかし投資時期のタイミングを計ることなど不可能なので、一括投資の運用結果が(20-18-4)式あいは(20-18-4)式の範囲内の何処に位置する結果になるかは運任せである。この運任せを避けて平均的収益を狙うときは、投資時期を(中期ポートフォリオの場合)2年間くらいにわたる積み立て投資にして投資時期分散を図ると良いようである。
(2012/3/20/UP)

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