(20-39) 実質実効為替レートによる資産管理の手順

 実質実効為替レートに基づいて資産運用を行う場合に最もややこしいのは、そして庶民が投資できる唯一の”実質実効為替レートに基づいた資産運用”は、外貨建MMFの売買と管理だろうと思う。なぜなら、外貨建MMFは個別に直接売買できるから。各国通貨MMFを組合わせたポートフォリオで国内債券インデックスファンドの代替ができたら、国内債券への過剰な依存(ホームバイアス)から脱出できると期待する。こう考えて、以下に記述のように実質実効為替レートに基づく先進国通貨MMFのポートフォリオ構築を検討した。結論は、自国通貨の実質実効為替レートだけが必要なパラメータであって、日本円建ての金融商品価格に日本円の実質実効為替レートを掛けるだけで資産管理データが取得できることが分かった。別の言い方をすると、個別の外国通貨の実質実効為替レートの増大を個人が直接には(名目為替レートの変化を通してしか)手にすることは通常は不可能である。

 なお、このブログでの単位の扱いは高校物理で学習した方法と同じで、
 (金融量)=(数値)×(単位)
であって、単位は文字式として数学のルールに則って演算される。

 i番目の通貨の単位をUiと表し、日本円(JPY)の単位をU1と表す。次に、Ui の Uj に対する名目為替レートを Aij と表すことにする。例えば、2番目の通貨をオーストラリア・ドル(AUD)とすると、 AUDの 円に対する名目為替レートは A21 と表わされる。 AUDの 対円為替レートが94.38円なら、A21 = 94.38 と表される。この場合、1 AUD と 94.38 JPY が為替交換されるので、金融量として両者は等価であり、両者は等号で結べる:
   1 AUD = 94.38 JPY
この式の両辺を JPY で割ると、
   AUD/JPY = 94.38 = A21
である。今の場合、AUD = U2、JPY = U1 なので、上の式を一般化すると、
   Aij = Ui/Uj ---------------------- (1)
と表せる。したがって、Aij = 1/Aji が成立する。

 次に進む。実質実効為替レートとは指数であって、通貨(名目通貨)を購買力に変換する補正係数である。つまり、名目為替レートだけではその通貨の購買力(つまり、実力;物価の変動も考慮)を表すことはできないとの考えである。i番目の通貨の実質実効為替レート(BISが発表する指数;BIS:Bank of International Settlements、国際決済銀行)を Bi と表示し、その通貨の実力を反映した実力反映通貨単位(言い換えると、世界貿易における購買力で表した通貨単位)を Vi と表すことにする。なお、Bi は2010年を基準にし、全通貨の実質実効為替レートに対して基準年のBi を100としている。したがって、名目通貨単位を購買力通貨単位に変換する補正係数としてBi/100が適しているので、ここでは
 Ui = (Bi/100) Vi ---------------------- (2)
とする。Viを個々の通貨記号で表すときは、通貨単位の前にVを付けることにする。例えば、日本円とオーストラリア・ドルについて、
(名目)日本円 = JPY = U1,        
V1 = VJPY=V円=「実力円」または「購買力円」
(名目)オーストラリア・ドル = AUD = U2, 
V2 = VAUD=「実力オーストラリア・ドル」または「購買力オーストラリア・ドル」
などのような記号表示を使う。

 具体的には、Bi の定義により前述のように、2010年には Bi =100 (全ての i に対して)だったので、JPY = VJPY、つまり 円=「購買力円」 なので、2010年に100万円の現金を持っていたら、その購買力は100万「購買力円」だった。2014年3月の日本年の実質実効為替レートのBIS発表値は B1 = 77.41 なの、2014年3月の100万円の現金の購買力は、
  購買力 = 100万JPY = 100万*(77.41 V1/100)
       = 77.41万 VJPY = 77.41万 「購買力円」
  (上の式の2番目の等号は、JPYに(2)式を代入している)
となり、2010年から2014年3月まで100万円を現金で持っている間にその購買力は元の77.41%に下落したということになる。生活実感として、この間の物価値上がりは1-2割前後であろうか、特に最近半年の値上がりがすごい。海外出張者、海外旅行者や輸入業の方は25%程度の日本円の購買力減衰を実感していると推測する。そして街中には外国からの観光客の数が大幅に増えている。2014年3月における欧米諸国通貨の実質実効為替レートは100前後なので、彼らにとっては日本の物価が25%引きになっていて、日本観光を安価に楽しむことができる。

 実質実効為替レートを使うことの利点は、米国からの輸入品にはドル円為替レートを使い、中国からの輸入品には元円為替レートというように個別の為替計算をしなくても、「日本円の実質実効為替レート」というたった一つのパラメータで日本円の購買力を概算できる点にある。かくして、購買力保全を目指す資産運用には実質実効為替レートで補正した日本円、すなわち「購買力円」、を使うのが便利である。

 次に、購買力に基づいて通貨交換することを考える。(1)式は名目為替レートが Ui の比であることを示しているように、購買力に基づく通貨交換の為替レート Cij は(1)式の Ui を Vi に書き換えればよいので、
   Cij = Vi/Vj = (Bj/Bi) × (Ui/Uj) = (Bj/Bi) × Aij ------- (3)
となる。なお、上式の二番目の等号では(2)式の変形(Vi = Ui/Bi と Vj = Uj/Bj )を代入し、三番目の等号では(1)式を代入した。

 次に、 i番目の通貨MMFの元利合計額 Ti を実質実効為替レート建の評価値に変換する計算法を見る。Ti の生データの通貨単位は Ui なのでこれを Vi 単位の値に換算すればよい。計算手順は、元利合計額 Ti に、(2)式を変形して得られる (Bi/100)×(Vi/Ui) = 1 を掛けると Vi 単位の量に換算される。すなわち、Ti に1を掛けても量は変わらないので、
   Ti = Ti × (Bi/100) × (Vi/Ui) =Vi × (Ti/Ui) × (Bi/100)
この式の両辺を Vi で割ると、
  (Ti/Vi) = (Ti/Ui) × (Bi/100) -------------- (4)
を得る。この式の意味するところは次の通りである: Ui 単位であらわされたTi の数値部分に (Bi/100) を掛けると、Vi 単位で表示した数値になる。

 最後に、通貨単位がごちゃまぜのままではポートフォリオを組めないので、Vi建ての各通貨MMF元利合計を一つのVi単位、勿論 VJPY(= V1 = 購買力円)を選ぶ、に換算してポートフォリオ構築を検討するためのデータにする。i 番目通貨のMMFの元利合計 Ti を V1 単位で表すには、(3)式から得られる
  Vi/V1 = (B1/Bi) × Ai1
の両辺を(4)式の両辺に辺々掛け合わせて、
  (Ti/Vi)×(Vi/V1) = (Ti/Ui) × (Bi/100) ×(B1/Bi) × Ai1
すなわち、 Ti/V1 = (Ti/Ui) × Ai1 × (B1/100) --------(5)
または、 (5)式に、j = 1 に置換した(1)式を代入して、
   Ti/V1 = (Ti/U1) × (B1/100) ------------------(6)
となる。

 外貨建てMMFの元利合計を実質実効為替レート建てで評価し、そして通貨毎に実質実効為替レートが違っていても、その元利合計を日本円の実質実効為替レート建てで評価すると、外貨の実質実効為替レートは無関係となり、日本円の実質実効為替レート(つまり、B1)のみが顔を出す。その理由は、外貨と日本円の通貨交換が名目為替レートでのみ行われるからである。つまり、ある外貨に投資していて、その通貨の購買力が大きくなっていても、その通貨と日本円の間の名目為替レートがもし変わっていなければ、その外貨投資を日本円に戻すときに、外貨が持っていた購買力の増大は消えてしまう。別の言い方をすると、外国投資とその収益還元を、通貨を通して行う限り、我々は外国通貨の購買力増加を直接手にすることはできない。

 ただし、ある外貨の実質実効為替レート(Bi)が高くなるときには、普通、その外貨は日本円に対しても値上がりしていて、名目為替レート Ai1 も高くなっている。したがってそのときには、外貨MMFの外貨建元利合計額(Ti/Ui)が変化していなくでも、日本円実質実効為替レート建の合計額(Ti/V1)は値上がりしている((5)式参照)。ある通貨の実質実効為替レートの上昇は、その通貨のMMFをもっている場合には、日本円に戻して評価したら、外貨建て利率よりも高い収益を手にできるのが普通であろう。(この部分、2014/7/2/追記)

 最後に、投資の金額をどう決めるかを考える。MMF組合せのポートフォリオに従って、総額C円を投資する場合を考える。そのポートフォリオにおけるi番目通貨のMMF(実質実効為替レート建の評価に換算したMMF)への投資分率がXiであると計算されていたとする。この場合、i 番目の通貨MMFへの投資額は、単純に Xi*C円を投じて当該MMFを購入すればよい。勿論、外貨MMF購入時に、日本円から外貨に交換するときに適用されるのは名目為替レートである。単位さえ共通にしておけば、どんなに複雑な量の比でも、単純な数値の比に過ぎない。

 MMF組合せポートフォリオの売却で日本円に換金する場合、日本円必要総額C円を得たいとき、分率Xiでi 番目のMMFを売るには、Xi*C円の日本円を得るように名目為替レートを使って当該外貨建MMF売却額を決めたらよい。

 結局、各国通貨の実質実効為替レート建で海外資産を評価しても、最終的には自国通貨に通貨単位を統一してポートフォリオを組む必要がある。その結果、ポートフォリオ組み立てにおいては自国通貨の実質実効為替レートだけが顔を出すことになる。

 日本円の実質実効為替レート建てで全金融資産投資を評価することは、日本円にも為替リスクがある(輸入品価格の変動を通して運用資産の購買力に為替リスクが入る)ことを陽に含めることになる。一方、日本円建てで全投資を評価するときには為替リスクは海外金融資産にしか含まれてない。両評価方法の差異は、天動説と地動説の差異によく似ている。

 ちょこっと考えるだけでは、日本円建ての内外金融商品評価値に日本円実質実効為替レートを掛けて日本円実質実効為替レート建ての金融法品価格に変換しても、定数比例して全商品の評価額が変わるだけで、全く意味のないことのように見える。しかし、それは大間違い。名目通貨建て金融商品価格の経時変化と日本円実質実効為替レートの経時変化は互いに異なっている。それ故、内外金融商品評価値の経時変化は、日本円建てであるか、日本円実質実効為替レート建てであるかによって、異なったものになる。そしてリターン、リスクならびに相関係数の評価値が違った値になる。このことを、「金融商品を実質実効為替レート建で評価すると、日本円にも為替リスクが含まれることを陽に(explicitly)認めることになる」と表現できる。そして、国内投資に偏り易いというホームバイアスを合理的に回避する手段を入手できると期待する。

 なお、この項の結論の式、(5)式、はもっともっと簡単に誘導できます。しかし、ここに書いたように、諸外国通貨の実質実効為替レート建ての評価値までもってゆく式変形と経由しても、ある意味で残念な式(5)に行き着いてしまって、筆者自身は(5)式に納得したことを申し添えます。もう一言付け加えると、「簡単に誘導できる」式を持って回った式変形を経由してしか納得できないのは、筆者の数学力不足を示しているに過ぎない。
(2014/6/12/UP)(2014/7/2/追記)

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