(20-42) 日本円実質実効為替レート建の短期ポートフォリオ

これまで名目日本円建てでポートフォリオを組んでいたが、今回、日本円実質実効為替レート建でポートフォリオを組むことを試みる。日本円実質実効為替レートとして、BIS(国際決済銀行、Bank of International Settlements)の発表するNarrow Indices を使う。

日本円実質実効為替レートとは、一定量の日本円(例えば100円)で買える外貨量を指数化して表したもので、どの外貨をどの比率で買うかは当該通貨国と日本との貿易量に比例させ、なおかつ日本円と外貨の両方に対して消費者物価指数でインフレ・デフレ補正を加えたものである。日本円実質実効為替レートが大きいときは円高を、小さいことは円安を表す。諸インデックスの日本円建ての値に、BIS発表の日本円実質実効為替レートを掛けるだけで、そのインデックスの日本円実質実効為替レート建の値が求まる(20-39の記事参照)。

円建インデックス値を日本円実質実効為替レート建ての値に換算する操作は簡単であるが、意味する観点の変化は大変大きい。すなわち、通常よく使われている名目日本円建てのインデックスでは、為替リスクを負うのは外国債券や外国株式のインデックスだけで、国内の債券や株式のインデックスには為替リスクはないと考えていることになる。ところが、クロダ・アベノミクスのような通貨緩和の下では、ドル・円、ユーロ・円、ポンド・円など全ての外貨の為替レートが円安・外貨高に振れた。これは外貨が値上がりしたのではなく、日本円が値下がりしたのであって、大きな負の為替リスクを日本円が被り、日本円で保有していた資産は購買力で減価している。その証拠に、例えば日本円でのガソリン価格は大きく値上がりしている(2014年前半)。日本円実質実効為替レート建のインデックスの利点は、海外の債券や株式のインデックスには外貨のもつ為替リスクを反映させ、そして国内の債券や株式のインデックスには日本円が対外貨でもつ為替リスクを反映させたインデックスになる点である。これまで地面(日本円)は不動で、動いているのは天体(外貨)だけと考えていたが、実は地球(日本円)も個々の天体(個々の外貨)もそれぞれに動いていると気付いたわけであり、天動説から地動説への転換という次第。

20-40や20-41の記事で「最安全MMFセット」などと名付けた外貨MMFの組合わせを考えてきたが、個々の外貨の実質実効為替レートの経時変化の性質がまだよく理解できず不安が残るので、各外貨MMFやその組合せへの投資はやめておく。ここでは、国内債券、国内株式、先進外国国債、先進外国株式、新興国株式の五つのインデックスファンドへの分散投資のみを検討する。

まず、従来の名目日本円建てのデータをすべて日本円実質実効為替レート(以後、¥ERERと略称する)建ての指数に換算してそれらの経時変化を図20-42-1に示す。

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  (図をクリックすると、拡大された図が出ます)

これまでの名目日本円建てインデックスのグラフから大きく変わったのは、(1)国内債券の変動幅が大変大きくなった;この指数は日本円建てでは極めて変動幅が小さかったが、¥ERER建インデックスでは日本円の為替リスクを反映してブレ幅が大きくなっている。(2)逆に先進外国債券の指数(Citigroup WGBI)の変動幅が日本円建て指数に比べて少し小さくなった。

この図に示したグラフの内、太線で示した部分を使って統計処理を行い、リターン、リスクならびに相関係数を求め、表20-42-1に示した。なお、ここで使う対数は全て常用対数である。

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(表をクリックすると、拡大された表が出ます)

この表のパラメータを使って、μ/σ期待値が最大となるポートフォリオ(つまり、元本割れ回避必要期間が最短のポートフォリオ;http://williberich.at.webry.info/201103/article_2.html)を組むと
  日債:外債:日株:外株:EM株=0:78:0:22:0
のアセットアロケーションが求まり、そのリターンとリスクの期待値(年倍率の常用対数表示)は
  μ = 0.0200、σ = 0.0373 
であり、これらの真数換算値は年リターン4.72%、年リスク9.39%である。このポートフォリオは全面的に先進国国債と先進国株式への投資となっている。実質実効為替レート建て投資を行うというのは、いうならば、経済規模の大きな国(つまり先進国)の通貨の平均購買力基準でポートフォリオを組むことになり、先進国全体の金融市場で最適な債券:株式の投資比率を選ぶことになるので、上で得られたようなアセットアロケーションが得られるのは順当であろう。ここに日本の債券指数も株式指数も顔を出せないのは、日本経済の「失われた20年」の反映であり、寂しい。取り敢えず、このポートフォリオに「¥ERER建短期ポートフォリオ」という名前を付ける。

1992年年末以降の各月末に「¥ERER建短期ポートフォリオ」に対する投資を行った場合の、運用期間別の運用実績を図20-42-2に示した。5年間運用の実績を¥ERER建で評価した結果は、この図の太緑線で示されている。リーマンショック(2008年)直前の米国サブプライムローン・バブル期の2005年から2007年にかけて実施した投資はリーマンショックの影響を被って、年利表示で-6%の評価損である。つまり、購買力100万円の投資が、5年後には購買力73万円 ((1 - 6%)^5 = 73%) に減額という悲惨な結果である。しかし、運用期間を6年に伸ばすと(太黒線グラフ)、もうリーマンショックを含む運用期間であっても購買力の元本割れは起きてない。

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(図をクリックすると、拡大された図が出ます)

名目日本円で評価を行うと、様子は変わる。6年運用であっても(細黒線のグラフ)、最不運時(2006年年1月末)の額面100万円投資では6年後に額面83万円(年利で-3%)に減額している。購買力では元本割れは起きてないと言っても、額面が83%まで減額していることに投資家は納得できないかもしれない。「¥ERER建短期ポートフォリオ」への投資が、額面でも(つまり名目¥評価で)元本割れしないためには8年(細紫線グラフ)の運用期間が必要である。

\ERER建評価と名目¥建評価の両者での元本割回避必要期間がそれぞれ6年と8年であることを勘案して、一応、「¥ERER建短期ポートフォリオ」への投資は7年以上の運用期間が適していると考える。これよりも短い期間しか寝かせておけないお金をどう運用するかは、今後検討する。一つの候補は、変動10年の個人向国債である。名目¥での元本は保証されており、そして変動金利なので、インフレ進行時には金利上昇が期待され、インフレ被害を抑えることができる。もう一つの候補として、運用期間7年未満の投資は名目日本円建てでポートフォリオを組むことも考えられる。あるいは「最安全MMFセット」が本当に安全そうなら、これをポートフォリオに組み合わせることも考えられる。運用可能期間の短い資金の運用先選択は難しい。

話を元に戻して、図20-42-3には、名目円で評価した4年、5年、6年、7年、8年運用の実績を細点線グラフで、また、日本円実質実効為替レート建で評価した、4年、5年、6年、7年、8年運用の成績を太実線グラフで示している。最悪、最良、そして平均の運用実績をそれぞれ赤、緑、そして黒の線で示した。\ERER建運用実績の平均値(黒太実線)は1.9%、名目¥建運用実績の平均値(黒細点線)は2.8%である。名目¥建評価平均値の方が約1%高いのは、日本円の外貨購入実力(つまり日本円実質実効為替レート)が1994年以降、年利表示で概ね-1.5%の傾きで円安方向にゆっくりと進んでいること(図20-42-1の茶色線グラフ)の反映である。

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(図をクリックすると、拡大された図が出ます)

まとめ:日本円実質実効為替レート建で資産運用を考えると、「¥ERER建短期ポートフォリオ」(投資配分比 日債:外債:日株:外株:EM株=0:78:0:22:0)が元本割回避に必要な運用年数が最短のポートフォリオであり、元本割回避には7年以上の運用期間が必要である。
(2014/7/6/UP)

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