(20-59) MSCI-EM Net指数の過去への外挿

MSCI社が公表する株価指数には、Price, Gross, Netの三指数がある。これらは同社の説明(MSCI INDEX DEFINITIONS, Index Marketing, February 2015 )によると以下の通りである:
Price: 株価のみの指数、配当は含めない;
Gross: 株式発行企業と同一国の国内投資家の得る全ての配当等を再投資した場合の株価指数(原文には、配当は「Tax Creditは含まない」と注釈されているが、この注釈を「課税なし」と理解するか、「税額控除適用なし」と理解するかを迷うが指数利用上はどちらでも影響は無い。一応、課税なし配当の再投資と理解しておく。文末の脚注参照);
Net: 外国籍投資機関への課税分を差引いた配当を再投資した場合に得られる株価指数。
したがって、日本の投資信託会社が追従目標にする指数は、Net指数であると推測される。
リターンの大きさの順は Price < Net < Gross となるはずである。

さてここから本題。MSCI-EM指数のPriceとGrossは1987年末以降の月次データが公表されているが、Net指数は2000年末以降分しか公表されてない。100%正確でなくても近似値は充分役に立つと考え、Price指数とGross指数を使って、Net指数の時系列データを2000年末から1987年末まで過去に向かて外挿して得たものをこれまでも使っていた。しかし、どのような考え方に基づき外挿したのか記録も記憶も残ってない。そこで、改めてここでEM Net指数の2000年末から1987年末までの外挿を行う。結論から言うと、従前の外挿値と、ここで改めて計算しなおした外挿値との差は1%未満で実質的に同じであり、新たな修正は必要ないことが確認できた。

初期値1貨幣単位の指数の1株(1口)の価値(つまり指数)の推移を考える。第i月のPrice, Gross, Net指数値をp(i), g(i), n(i)とする。三指数の差は配当から生じるので、三指数の初期値(最初の配当が出る前)は同一である。したがって p(0) = g(0) = n(0) = 1 である。 第i月の配当をd(i)とする。配当に課される税率(Net指数に関わる税率)をtとし、この率は全期間にわたって不変一定であると仮定する。第i月の配当を月末に再投資すると、第i月始めの保有株の一株当たり
Gross指数は c(i) = d(i)/p(i)  株分だけ余分に増加し、
Net指数は c’(i) = (1 – t)*d(i)/p(i) = (1 – t)*c(i) 株分だけ余分に増加する。
この増分株数c または c’ の累積がPrice指数から見たGross指数またはNet指数の追加増分をもたらす。当月分配当再投資を済ませた後の、第i月の本当の月末指数値は
g(i) = {1 + ∑c(j)}*p(i)
= p(i) + {∑c(j)}*p(i) --- (1)
n(i) = {1 + (1 – t)*[∑c(j)]}*p(i)
= p(i) + (1 – t)*{∑c(j)}*p(i) --- (2)
となる。ここに∑c(j)は、c(j) をj = 1 から j = i まで足し合わせた総和を表す。
上の二つの式から、
{n(i) – p(i)}/{g(i) – p(i)} = 1 - t --- (3)
が得られる。この式は、Net指数とPrice指数の差とGross指数とPrice指数の差の違いは税率から生まれるという、極めて当たり前のことを述べている。配当への税率が大きく変動しない限り、{n(i) – p(i)}/{g(i) – p(i)} を経過月数 i に対してプロットすると、一定値(水平線)が得られ、その値は{1 – (税率) }を与える筈だ。

具体的な手順としては、MSCI-EM指数のPrice. Net ならびに Gross指数の三者が公表され始めるのは2000年12月末以降なので、この時を i = 0 に選ぶ。MSCI社発表のPrice指数、Gross指数とNet指数のナマの値をそれぞれ P(i), G(i), N(i) と表すと、p(i) = P(i)/P(0), g(i) = G(i)/G(0), n(i) = N(i)/N(0) とすれば初期値を1に統一できる。

このようにして描いた 1 – t = {n(i) – p(i)}/{g(i) – p(i)} のグラフを図20-59-1に示す。

画像

(図をクリックすると大きな図が出ます)

最初の半年間のグラフの大きな揺らぎは、決算期毎にしか出ない配当を滑らかに各月に分散する手法(MSCI社が”MSCI Daily Total Return (DTR) Methodology”と呼ぶ手法)上の無理に由来すると考えられる。2001年後半から2004年にかけて (1 – t) の値は0.9に落ち着いていて、これは配当への税率10%に相当する。

そこで、 t = 10% を使い、(3)式を変形して得た
n(i) = p(i) + (1 - t)*{g(i) – p(i)} --(4)
を使って1987年末までの過去に向かってn(i)を外挿する。最後に
N(i) = n(i)*G(0)  (ここに i = 0 は2000年12月末日を意味する)
によって、MSCI-EM Net 指数の近似値を得る。

このようにして得たMSCI-EM Net指数は従前の外挿値とほとんど差が無かったので(差異1%未満)、(20-56)や(20-57)の記載事項の修正は無い。

脚注 ------
MSCI-EM Gross指数のMSCI社の説明文の中に、「Gross指数はtax creditを含まない」と出ている。「tax credit」は税務用語しては「税額控除」の意味らしい。「これを含まない」とは(優遇税制としての税金の引き下げは使わず)、税金を規程通り払うと理解できる。一方、「gross income」と「net income」を並べたら、「gross income」は税引き前の総収入、「net income」は税引き後の手取り収入の意味になる。この意味では、Gross指数は税引なしの配当の再投資を含めた指数と理解できる。
(2017/2/14/UP)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック