(20-63) まだVT(海外ETF)投資を続けるのですか?

海外ETFの代表例として米国市場上場ETFのVT(Vanguard Total World Stock ETF )を取り上げ、通常の国内の投資信託と比較して、海外ETFが国内投資家にとって本当に有利か否かを調べる。VTはMSCI-ACWI指数(先進国とエマージング国両グループを合わせた平均株価指数)に追従する米国上場のETFで、実質コストが0.11%と低い。同じMSCI-ACWI指数に追従する「普通」の投資信託の一つに「eMAXIS全世界株式インデックス」がある。

厳密にはVTは日本の株式への投資を含むが、「eMAXIS全世界株式インデックス」は日本株式投資部分だけが省かれている点が異なる。でもその差は僅かである;なぜなら、残念ながら世界における日本株式総額は余り大きくない。

「eMAXIS全世界株式インデックス」の実質コストは0.718%(http://noload.558110.info/eMAXIS-ZensekaiKabushiki.html に記載の値に信託報酬への税金を加えた)、VTのそれよりかなり大きい。このコスト差を海外ETF投資派は重視する。でもこの比較は、分配金(配当)の税負担を考えてない点が片手落ちであり、間違った結論を得ているというのがこの記事の主旨である。

VTの2016年の4回の配当分配日の平均単価は$59.23、円換算で6,400円である。2016年の税引前分配金の年間総額は円換算で一株当たり157.6円である。分配金から米国税率10%の15.8円が差し引かれ、残額から更に日本の税率20%(より正確には20.315%、ここでは臨時措置の0.315%を計算に含めない)が差し引かれ、合計で28%【1 - (1 – 0.1)(1 – 0.2) = 0.28 】が差し引かれる。差し引かれる日米の税額合計は44.1円、平均一株価格6,400円の0.69%である。国内投資家がVTに投資するときの年間実質コストは、米国内での実質コスト0.11%と、分配金に対する日米両国の税金0.69%を合わせた0.80%になる。

日米両国での二重課税分を控除する制度が有るが、その上限は、
  国内所得税総額 × 海外所得額 / 国内所得額
なので、確定申告時に二重課税分返還を申告しても、返還されるのは二重課税分の一部分だけになることが多い。しかも返還を申告すると、次の年の地方税、健康保険料、介護保険料の増額をもたらす可能性が高い(海外ETFを納税有の特定口座で保有していれば、確定申告しなくても合法である。申告しない限り配当や分配金を得ていることは表に出ず、余分な課税や社会保険料増をもたらさない)。つまり、殆どの場合、日米両国の二重課税分の控除を申告しない方が税・社会保険料の負担が少なくて得である。
多くの場合、
地方税<所得税<介護保険料<<健康保険料 
である。

一方、「eMAXIS全世界株式インデックス」はこれまで分配金を出してない(分配金を出す代わりに”全世界株式”に再投資している)ので、分配金への課税による運用ロスは無い。従って、分配金への税金まで含めた実質コストは
  VT 0.80%
  eMAXIS全世界株式インデックス 0.718%
となる。税金まで含めると、日本の投資家にとってはVTよりも「eMAXIS全世界株式インデックス」のほうが0.08%低コストである。

更に、海外ETFの購入・売却には、売買手数料(1回当たり27ドル前後)と、日本円-外貨間の往復の為替手数料が経費として差し引かれる。一方「eMAXIS全世界株式インデックス」の場合は売買手数料は無く、投資信託運用会社の支払う為替手数料も個人よりも有利な手数料が適用されている筈である。これらを各年に割り当てて実質コストとして計算して比較はできないが、海外ETF投資にとっては余分な不利益である。一方、「eMAXIS全世界株式インデックス」売却時には信託財産留保額として売却額の0.05%が差し引かれる。

その他に、海外ETF購入の場合はドルコスト法(原資均分法)を利用できない。ドルコスト法で購入した投資信託を売却して海外ETFに乗り換えるリレー投資の提案もあるが、乗り継ぎ時点の収益に20%課税されて運用ロスをもたらす。また海外ETFの分配金は米ドル預り金で支給されるので、再投資の手間が必要である。さらに、老後、海外ETFを売却して生活費に充てるとき、売却タイミングを計って疲れるかもしれない。

一方、「eMAXIS全世界株式インデックス」売却の場合は、定期的に(例えば、1カ月毎に)一定口数の投資信託を売却すればよく(原資均分法、投資信託売却時のドルコスト法;記事20-54参照 http://williberich.at.webry.info/201603/article_1.html;一定口数の売却が重要、一定金額取得の売却は駄目)、売却タイミングを計る必要はない。

以上を勘案すると、海外ETFでしか投資できないような対象を選ぶ場合以外は、国内の普通の投資信託を選ぶ方が有利に運用ができる場合が多くなっている。日本の投資信託事情はかなり改善されている。

最後に、2015年年末にVTと「eMAXIS全世界株式インデックス」とに同一金額の投資をしたときについて、2016年年末時点における運用の成果を比較する。勿論、「eMAXIS全世界株式インデックス」投資の方が有利であるという実績が出てくる。その詳細は以下の通りである。

まず、2015/12/30に楽天証券でVT200株を買ったとする。単価:$58.12;ドル購入為替レート:120.54 + 0.25 = 120.79 \/$(0.25円は為替手数料);購入手数料$27.00 なので、購入全費用は$11,651.00、1,407,324円である。2016/12/30までの1年間に受け取る分配金(税引後)は22,599円、2016/12/30時点の時価総額は、単価:$61.00;円戻し為替レート:116.80 - 0.25 = 116.55\/$ なので、手取分配金まで含めて、200 × 61.00 × 116.55 + 22599 =1,444,509円となる(売却手数料は計算に含めてない)。

以上纏めると、1,407,324円でVT200株を2015/12/30に買った場合、1年(+1日)後の評価額(含手取分配金)は1,444,509円となる。運用益は37,185円、初期費用の2.642%である。

一方、2015/12/30における「eMAXIS全世界株式インデックス」の単価(基準価格)は\21,633、そして2015/12/30の単価は\22,235、この一年間に分配金は出てないので、1年間の収益率は (22,235 - 21,633) / 21,633 = 2.783%である(売却時の信託財産留保額は計算に含めてない)。

2015/12/30から2016/12/30までの1年(+1日)の運用では、VTよりも「eMAXIS全世界株式インデックス」の方が年間利率表示で 2.783% - 2.642% = 0.141% 良好である。

なお、この0.141%の差の大部分は為替スプリットと購入手数料から生じている。そこで、VT売買の手数料(購入手数料の27ドル、為替スプリット往復分で1ドル当たり50銭)を含めずに、VT200株の、上と同一期間の運用益を計算すると、
 初期費用:200*58.12*120.54=1,401,157円
 1年後の評価額:200*61.00*116.80+22599=1,447,559円
 収益率:(1447559-1401157)/1401157=3.312%
となる。売買手数料を含めない場合は、VT購入の方が「eMAXIS全世界株式インデックス」購入よりも 3.312-2.783=0.529% 有利である。これらから概算すると、7年以上の運用期間なら(株式へのインデックス投資なら7年以上は当たり前の運用期間である)、売買手数料を含め、分配金(配当)への日米の二重課税が有ってもVT投資の方が有利である。ただし、「eMAXIS全世界株式インデックス」で運用するときの、購入・売却の時間分散の有利さを無視した場合の話である。

これらの比較から、「eMAXIS全世界株式インデックス」の運用コストの更なる引き下げは可能であると推測され、それを大いに期待する。
(2017/5/29/UP)(2017/5/30/文字化けと説明不足の修正)(2017/6/2/手数料を無視した場合のVT投資について追記)

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この記事へのコメント

SDY
2017年05月30日 07:36
私は配当貴族なSDYに凍死します・・・が、最近は日本でも出てきていますね。
正直 ETF>>>凍死信託と思っていましたが、最近は風向きが変わっていますね。
VTは、選び抜いている企業の質が違います。
2017年08月01日 17:42
単純な視点による分析ですね。コストのみですね。こういう考え方一辺倒で困りますね。VTと日本の投資信託の違いは、その運用姿勢やポリシー、永続性なのです。
定期預金の利率が0.25%の金融機関が0.2%よりもコスト的に優れていると力説しているだけですね。0.25%の銀行の破綻可能性が高めで、0.2%はAAAだったらどうでしょうか。
そういう視点でもお考えください。
あまりにも、リターン追求一辺倒で、投資家として情けないです。バンガード社は、指数連動だけでなく、顧客のことを考えた理念やたとえ指数で挙がっている企業でも、不適と判断すれば除外するのですよ。(ここ重要)。不要なリスクを除外してくれていることなど、あまり周知されていないでしょうね。この姿勢がない投資信託など、余計な企業の不安定リスクで簡単にコスト分以上の損失をこうむります。正しい運営がなされている企業の全世界株式VTとスクーリングが適当な全世界株式を同じ捉えで考えられるところが、稚拙な分析だなと感じます。商品そのものの質が違うことを置いて議論しても何もなりません。
大小じいじ
2017年08月02日 10:35
「単純な視点による分析ですね。コスト・・・」コメントへの回答:
質の高いコメント、有難う。検討させて頂いた結果を、改めて記事にしたいと思いますが、チョッと時間が必要です。こういうコメントは有難い。

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