(8-4) 先進23ケ国の平均株価の長期経時変化から見えてくること

  米サブプライムローン&リーマンショックショック世界金融危機(2007年10月‐何時終息?)最中にあって株式投資について考えた。様々な憶測、予測、評論が飛び交う中、こういうときこそデータそのものを見るべきであろう。

 先進23カ国(日米EUから香港、シンガポールまで)の加重平均株価(税引配当再投資を仮定した“株価”指数( MSCI The World Index Net指数:今後MSCI-WI-NETと略称する)の時系列データが、他の多くの株価指数と共にMSCI-Barra社からネット上に無料公開されている(日経平均もTOPIXも市場株価指数の長期時系列データは有料でしか公開されてない! ただし、日経平均指数時系列データは日銀HPに収録公開されている。一方MSCI-Barra社は全世界各国の平均株価指数を算出し、日々の指数値や長期の時系列データを無料で公開している。その結果MSCI-Barra社の投資哲学が世界の投資を牛耳っている! 公開しながら先頭を走り続ける、これが分野を牛耳る唯一の方法であろう;“一子相伝”とか“見たいなら金を出せ”などと隠すのは当座は良いが、少し長く見たら落ちぶれる為の早道である)。このMSCI-WI-Net指数のUS$表示値の経時変化のグラフを図8-4-1に示す。

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                      (図をクリックすると拡大されます)

 まず、図8-4-1のUS$表示の先進国平均株価の常用対数表示の1969年12月以降の月末データの経時変化を見る。このプロットは1次回帰線(赤線;1次式による最小2乗法フィッティング)の周りにばらつきながら、長期的にはほぼ一定速度で上昇(増額)している。赤線の傾きは年利10.8%の複利増額に相当している(注意:税引き配当の再投資のときの、そして米ドル表示したときの年利である)。

 青点(株価指数実績値)が赤線(1次回帰線)より上のときは、株価が「本来の順当値」より高くて好景気雰囲気のときであり、赤線より下のときは株価低迷中で不景気雰囲気に包まれているときである。青点が赤線よりも極端に上にズレていれば株価がバブッている。最近では、2000年初頃には株価が極端に高く、株式主役(特に、米国NASDAQ株式)でITバブルが起こっていた。2000年3月にはついにIT株価バブル崩壊が起こり2003年3月まで3年間に亘って株価がやや緩やかにしかし大幅に下落した;3年間での下落幅は45%程度であり、速度は遅いが下落率はかなり大きかった。2003年4月頃からゆっくりした株価回復が始り、2007年10月になってやっと赤線の「本来の順当値」まで戻った。ところがこの時サブプライムローン金融危機(後にリーマンショック金融危機)に遭遇して株価の急落が起こる。今度の株価下落は2007年7月から2009年3月までの1年5ヶ月間に51%の急落である。2000年以降は先進国の株価は、後述のように、株式自身の失敗、次に新型債券や新型保険の失敗のトバッチリで、踏んだり蹴ったりの状態である。

 2000年3月に崩壊したITバブルの主役は株価であったことは図8-4-1の株価高騰から明らかである。ところが今回のリーマンショック金融危機の源となったバブルの主役は株式ではない。図8-4-1から明らかな様に、株式は今回崩壊のバブルの脇役ですらない。今回の金融危機をもたらしたバブルの主役は債券と不動産であって、債券価値が消失した為にこれらを売却して現金に換えることができず、株式は唯一の現金供給元として叩き売りされて下落しただけである。つまり今回の株価下落は債券分野の不始末のトバッチリである。従って、株価のある程度の回復は比較的早いと期待できる。しかし、株式は何の悪さもしてないし過剰価格高騰もしてなかったが、世界でお金が廻らない限り生産と消費の回復は始らないから、株価の完全回復もない。株式に言わせれば、本当にえらいトバッチリである。

 次に MSCI World Index, Net 指数の円換算値の経時変化を図8-4-2のグラフに示した。我々日本人は日本円で生活しているので、世界への投資であっても日本円で始まり、その現金化も日本円で終わるので、MSCI-WI-NET指数であっても、日本円表示に変換しておかねばならない。

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                      (図をクリックすると拡大されます)

 図8-4-2の日本円表示World Indexと図8-4-1の米ドル表示World Indexを見較べると、日本円表示のグラフの方が複雑な動きになっている。これはドル・円為替レートの素直でない動きによって生じたものである。サブプライムローン危機の始る直前の2007年6月頃の日本円表示のMSCI-WI-NET指数は「正常値(1次回帰の赤線)」よりかなり高く、まるで先進国の株価がバブッている様に見える。しかし、図8-4-1のドル表示World Indexのグラフからわかるように先進国株式はバブッてはいなかった。ドル・円為替レートにおける異常円安の故に円換算で見たときだけ先進国平均株価が異常に高く見えただけ、世界の株が円安でおかしくなったわけではない。ただし、国内輸出産業の異常円安バブルを実力のみの結果と、日本人は勘違いしていた。

 なお、日本円表示のMSCI-WI-NET指数の1969年末以降今に至る値上りは、図8-4-2の1次回帰線の赤線の傾きから年利7.21%の複利増額となっている。同じMSCI-WI-NET指数の米ドル表示値では前述のように年利10.8%であった。この円表示値の年利とドル表示値の年利の差はドル・円為替レートの変化によりもたらされた。1ドルは、1970年頃は350円、今は95円、長期に亘ってゆっくりと円高ドル安が進んできた(日米のインフレの差の反映)。これが上記の7.21%年利と10.8%年利の差の唯一の原因である。そして、米ドル預金の金利が日本円預金の金利よりも概ね3%高かったのと同一原因(即ち、日米のインフレ率の差が主因)であり、ドル預金で額面が増えても、円に戻すとき為替で損をして、日本円のままの預金と同じことになる。銀行をはじめ金融プロはこれを知っている。にも拘らず、素人に金利の高いドル預金を勧める広告を打ち、高い為替手数料を稼いでいた。政府やプロが素人を騙しているように見える。素人は勉強して我が身を守らないとエライ目にあう。なお、プロがモラルハザードに陥って信頼が失われるとき、社会・国は没落し始めるのではない?。

 図8-4-1と図8-4-2の株価指数実績値(点)と1次回帰線(赤線)の差は、各時点における株価の「本来の順当値(赤線)」からの過剰な株高・株安のズレを表していると見なせる。このズレ率、{(実績点)-(赤線)}/(赤線)、の%表示を「世界株価ズレ率」として過剰な株安、過剰な株高の判断に使えれば便利であろう。なお、ズレ率計算には株価指数の対数値ではなく真数値(株価指数そのもの)を使う。この世界株価ズレ率の経時変化を図8-4-3に示した。

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                      (図をクリックすると拡大されます)

 図8-4-3のグラフを見ると「世界株価ズレ率」は当然のことながら、0%を中心にして上に下にと変動している。負のズレ率(株安)はいずれゼロに戻り、やがて正の値(株高)になる。最も長い世界株安期は1973年末から1985年末までの12年間である。この頃は米国経済規模が世界経済の過半を占めていて、この長期世界株価低迷は米国の不景気(米国の“失われた10年”)そのものを表している。

 今回の金融危機の場合、2009年8月現在のズレ率は-40%(日本円表示)ないし-45%(米ドル表示)で、2009年3月の-60%前後というズレ率から見たら多少回復したとはいえ、未だ記録的な株安方向のズレ率のままである。1973-1985年の例から見て、10年後には株価は順当値に回復している可能性は大である(ただし、日本は20年経過しても今の株価指数は1989年末のピーク値の株価の1/3位のままという悲惨さである。これを覆い隠す為に、株式投資はあぶく銭稼ぎとのイメージが広められたり、食料自給率を強調してエネルギー自給率には黙ってる?)。今後5年ないし10年程度寝かせておけるお金を株式投資して放置しておくと、10年の後には、(ズレ率0%の株価指数は1.00)/(ズレ率-40%の株価指数は0.60)=1.7倍、になると期待できる。これは年利5%の複利運用に相当する。国債よりもマシだが、これでは株式投資としてはちょっと引き合わないかな。5年くらいで株価が順当値まで回復してくれたら、年利11%前後の複利運用になるので株式投資としては順当をやや越える良好な期待収益であろう。

 大変“面白い”ブログを書かれておられる「グッチーさん」、「貞子ちゃん」、「一緒に世界の将来について考えよう」、「本石町日記」、「Murray Hill Journal (日本語サイト)」、「Calculated Risk(英語サイト、読むのが大変ですが、グラフだけでも面白い)」などの見解は、この初夏以降の世界の株価回復は“根無し”で(つまり経済学に適合しない)、近々株価の再崩落があるのでは とのこと。2009年初夏以降の米国株価上昇は政府や金融関係者による株価操作の可能性がありそのうち崩落するのでは との警告が、上記ブログ以外でもネット上で散見される。一方で今のところ株価上昇基調を感じるが、これは「飛んで火に入る夏の虫」の誘蛾灯であろうか?株式投資額を大きくするか否か、経済学の素養の無い理系隠居にとっては悩ましい。若くて暇が有って頭脳も柔軟だった頃もっと幅広く勉強しておくのだった!

 2008年3月以降2009年8月までの株価急回復後の将来を見渡すために、図8-4-3のグラフから、株価ズレ率負の底値からの回復の前例を探すと、以下のようである:
1974年9月‐1978年末 急回復-2番底-急回復―緩下落―3番底-急回復
1982年7月‐1986年末 急回復-高原―小さい急落-大きな急回復、バブルへ
2003年3月‐2008年末 やや急な回復-緩やかな回復―債券バブル崩落の投売りで急落

 一番底からの急回復が済んだ今(2009年8月下旬)となっては、10年余裕資金の半分位を素早く株式投資して(次の株価下落の前にできたら食い逃げして、食い逃げ失敗ならそのときは、長期の後には回復するから気長に待つ)、残りは次の底値で投資すると良いだろうか?本当に、今後もう一度株価下落が来て次の底値が形成されるのだろうか?もしあるなら次の底値はどのように現れて来るのか?

 前例(図8-4-1と図8-4-2)から見て多分、世界株価ズレ率が3ヶ月間にズレ率表示で10%位の下落(1974年9月や1982年7月からの世界株価回復の前例より)したとき、或いは6ヶ月間にズレ率が6%程度下落(2003年3月の回復の前例より)したときが次の株価底値ではなかろうか?
 一方 図8-3-1(2009/6/15 アップ、項目番号(8-3)の記事に掲載)の著名株価暴落比較グラフを見ると、近々20%ないし40%位の株価下落(下落期間は半年間くらい)があってもおかしくない:これは1990年の日本やスウェーデンの資産バブル崩壊との比較から。

 MSCI-WI-NET指数のドル表示(図8-4-1)や円表示(図8-4-2)の長期間のグラフから推測して、現在の株価は“順当値”よりも遥かに株安(40%以上の株安。まだ歴史的という形容詞を付けてもよい超株安、図8-4-3から明らか)で、グラフに示された従前の株価経時変化の様子から推測して、5年くらい後には株価は“順当値”に戻る可能性が高い。もし“順当値”までは戻らなくても、株式投資の今後5年間の平均の複利年利は赤線(1次回帰線)の傾きよりも大きい可能性は極めて高い。繰り返すが、図8-4-1や図8-4-2の過去40年間のMSCI-WI-NET指数の変動の“習性”から見て、今の時点での株式投資が5年後になったとき、円表示で平均年利7%を越えるの複利で投資収益をもたらす確率は本当に大きい。ただし、株式投資先の分散と投資時期の分散は必須であろう。

 投資先の分散は比較的容易であるが、投資時期の分散が難しい。今のように株価変動が激しく速い時期において、どれくらいの期間に分散して投資を進めるべきか?もし2番底が来るなら、今後数ヶ月後くらいの内に株価下落が始り、下落期間は数ヶ月から半年くらい(様々な前例からのアテズッポウ)。ならば、5年以上寝かせておける資金のみ株式投資し、その株式投資は今後1年間ないし1年半位の間に実施してしまうのが良いだろうと考える。例えば、投資可能金額を均分して、毎月定期的に投資して、1年半後には資金投入を完了する。ゲームなら気楽に楽しめるが、自分自身の老後資金の運用となると気楽ではない。投資運用した結果も、しなかった結果も自分自身に返ってくる。

 明確な結論は書けなかったが、歯切れの悪いことで今回の記述は終わり。(2009/8/29/ アップ、8/31手直し)

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