(10-17)  実質実効為替レート指数の改訂版(2010年9月は円高ではない)

 外国の株式や債券に投資すると、日本のものに投資する場合に較べて、余分に為替のリスクが加わる。そんな厄介で危険なことは避けて国内投資に限りたいところであるが、1990年の日本資産バブル崩壊後2010年の今に至るまで、日本株式価格は長期タイムスパンでは値下がり傾向を示しており、債券の金利も1.5%未満と低く、日本国内に長期投資しても大きな利益は生まれなかった。日本の投資家は否応無く為替リスクを背負いながら、海外投資せざるを得ない。それ故、我々日本居住者の資産運用には、為替レートの変動について多少の心得を必要とする。

 為替レートには、(1)一つの外貨を日本円で買う時の、例えば1 US$ = 何円 で表示する「名目ドル円為替レート($/¥為替レート)」や「名目ユーロ円為替レート」と、(2)日本円で買える外貨量の経時変化を、全外貨との平均為替レートで補正し(平均の計算法として、日本と各外国との国別貿易量に比例した加重平均をとる等、「実効、Effective」はその意味)、更に日本円と外貨の購買力差の経時変化を補正した(内外のインフレへの補正を加えることを意味する、「実質、Real」はその意味)「実質実効為替レート、Real Effective Exchange Rate: REER」がある。

 「米ドル日本円名目為替レート」や「ユーロ円名目為替レート」は、日銀のホームページで公開されている経済データや「Infoseek楽天、 マネー」(http://money.www.infoseek.co.jp/MnForex/fxlast/)で調べるとすぐ分かる。通常テレビニュースなどに出てくる為替レートはこれである。1米ドル或いは1ユーロを得るのに何円必要かという値で表され、値が小さい方が円高・外貨安である。つまり、名目為替レートとは単に日本円を外貨に交換することだけを考えた為替レートである。

 一方、「実質実効為替レート指数」は日銀やBIS(Bank for International Settlement;国債決済銀行;“各国中央銀行の中央銀行”と呼ばれる)が毎月の月間平均値を翌月初め(日銀)ないし中旬(BIS)に発表していて、日本円の商品購買力がどれ程の量の“平均外貨”の商品購買力に相当するかを示す指数であり、値が大きい方が円高・外貨安である。

 「実質実効為替レート指数」の定量的イメージを組み立てる。現在(2010年10月)日銀が毎月発表している「実効実質為替レート指数」は日本と外国の物価指数で通貨価値に対するインフレ・デフレ補正を加え、日本と世界各国との貿易金額で各外貨の為替レートを加重平均したもので、2005年(日銀が選んだ基準時点)を100として各時点での指数として表されている。簡単に言えば、次のようにして「実効実質為替レート指数」を決める: まず2005年(基準時点、日銀が適当に選んだだけ)に日本国内で100円の買物をし、買った量を“日本基準商品量”と呼ぶことにする。また、2005年に100円を持って諸外国に行って外貨に換えて外国で買物をし、購入できた量を“海外基準商品量”と呼ぼう。次に現在の為替レート指数決定に移る。2005年当時の“日本基準商品量”を現時点の日本円で買うのに必要な金額のお金(日本円、日本のインフレが進行していたら100円を越える金額になる)を持って諸外国に行って外貨に換えて“海外基準商品”を買えるだけ買う。現時点で買えた“海外基準商品”の量が2005年当時の“海外基準商品”の何円分に相当するか(つまり、2005年の“海外基準商品量”の何倍になっているか、厳密に表現すると「その倍数」×「100」)を調べると、この金額が「実質実効為替レート指数」である。それゆえ、値が大きい方が現時点の日本円の価値が高く(購買力が大きい)なっていて、円高である。つまり、実効実質為替レートは日本円の購買力を全外貨の平均購買力と比較して指数化したものであり、値が大きい方が円高・外貨安である。

 「実質実効為替レート指数」は各国物価指数の選び方(消費者物価指数、卸売物価指数などの選び方)と貿易量の選び方(輸入、輸出、貿易相手国の選択法)に依存して算出指数値が変わってくる。現在(2010年)までに公表されている日本円の「実質実効為替レート」は4つ有り、2つは日銀発表、残り2つはBIS発表のものである。

 日銀発表の2系列の内、1系列は1973年を基準値100にした旧指数であり、これは2010年1月に計算・発表を打ち切られた。日銀が現在も発表し続けている「実質実効為替レート」は2005年を基準(指数値100)とするもので、1980年1月以降の月次データが公表されており、翌月の第2営業日に前月データが発表される(http://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/m.html)。

 BISは毎翌月中旬に、各国通貨毎に2系列の「実質実効為替レート指数」の月次時系列データを発表している。1系列は Broad Index と呼ばれ58カ国の貿易量で加重平均して指数の実効化計算をし、1994年以降のデータが公表されている。もう一方はNarrow Index で27カ国の貿易量で加重平均して指数の実効化計算をし、1964年以降のデータが公表されている。BroadとNarrow の両指数とも、http://www.bis.org/statistics/eer/index.htm からCSVファイル形式で無料ダウンロードできる。

 以上の4系列の実質実効為替レート指数の経時変化をグラフにすると、図10-17-1のようになる。
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   (図をクリックすると拡大図が出てきます)

 この図は、4系列の指数の経時変化は短期間(2-3年以内)で見るとほぼ相似であるが、長期間(10年間以上)で見ると大きな傾向が異なることを示している。日銀の新指数(グラフの黒線)と旧指数(青線)は長期的にもほぼ相似した経時変化を示している。日銀の指数は1994年から2010年の間に日本円の購買力は平均外貨に較べて20%ないし30%減少したとしている。一方、BISのnarrow index(グラフ緑線)もbroad index(赤線)も、日銀の新旧両指数とは違って、1994年から2010年にかけて日本円の対外貨の相対購買力が20%ないし30%増したことになっている。これ程までに長期変動の評価が異なるとどの指数を採択するかを迷うが、一応、ここでは日銀の新指数(グラフ黒線)を採択する。

 次に、実質実効為替レート指数に基づく円高・円安判断基準について考える。もし世界の交易が物々交換ならば何時でも商品の等価交換になり、通貨は無いので円高も円安も無い。物々交換の間に自国と相手国の通貨が介在し、物々交換に比較して円高や円安が生じる。つまり、すぐには使わない余分な資産があって、これを円資産(通貨、預金、債券、株式など)で保有しておけば将来得である(物々交換に較べて)と多くの人が考えると円高になると考えられる。もし世界にインフレもデフレも無ければ、円高・円安は正常値(物々交換に等価な値)の周りで変動することになり、正常値は単純平均値ということになる。

 これに較べて、もし日本人の国民性や日本の経済システムが、諸外国に較べて、インフレ(すなわち、通貨価値の減少)を抑制する傾向が特に強いとすれば、諸外国の平均インフレ率と日本のインフレ率の差を反映して、日本円は常に円高進行傾向をもつことになる。つまり外国人にとって日本円を持つことはその国と日本のインフレ率の差の複利金利の預金を持つのと同等になる(変動を均して考えたらの話し)。そこで日銀新指数(図101-17-1の黒線)の常用対数の経時変化をプロット(グラフ黒線)し、その線形回帰線(赤線)を引いてみると図10-17-2の様になる。

 この図には指数真数の全期間に亘る単純平均準位(青水平線)も示した。線形回帰線(赤線)の傾きの4.380e-6は年利0.37%に相当する。このような低い年利に対して図10-17-2の黒線のように大きな変動幅(リスク)のある運用の採択は有り得ないので、外国人が日本円そのものに投資することはないと考える。むしろ日本人が日本円資産の低リターンを嫌って外貨資産に逃げることの変動が日本円の実質実効為替レート指数の変動をもたらしているのではなかろうか。
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   (図をクリックすると拡大図が出てきます)

 図10-17-2を見ると、指数の真数の単純平均(青線)を基準にしても、あるいは指数の対数の線形回帰線(赤線)を基準にしても、2010年9月現在の日本円の実質実効為替レート指数は、最近マスコミで言われているような円高・外貨安ではなく、むしろ円の購買力は丁度標準的な状態(青線基準の比較)ないしまだやや円安状態(赤線基準の比較)である。2005年からリーマンショックの2008年9月までが異常な円安・外貨高であって(そして日本は輸出産業盛況の円安バブルを味わった)、リーマンショック後はその異常円安が解消しただけであると云える。従って、現在のマスコミの円高報道のような噂に惑わされて外貨投資を標準以上には増額しない方がよいと考える。 (2010/10/27/UP)




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