(20-38) 実質実効為替レート建てインデックスを基礎としてポートフォリオを組む、その1

実質実効為替レート建てインデックスを基礎としてポートフォリオを組む、その1:諸インデックスの経時変化: まず、日本円の実質実効為替レート建てで諸インデックス値を算出し、その経時変化を調べることから始める。 

我々は石油、衣類、住宅用木材、大豆や小麦等々、エネルギー源から衣食住の全てに亘って否応なくドップリと輸入品の中に浸かって生活していて、生活費は全世界に直結している。円安になればガソリン、電気等のエネルギー費の値上がりを土台にして全てが値上がりする。2014年5月現在、まさにその円安由来の値上がり表面化の真っ最中である。資産運用において、円で表示した資産は守られていても円安になれば購買力で見たら資産減額であり、生活レベルを落とさざるをえなくなる。つまり、内外の債券や株式に分散投資するに当たり、配分比の選び方は、日本円基準で「ベスト」にするのが本当のベスト(購買力で見たベスト)ではない。

そこで次の様に考えた。その時々の世界貿易における日本円の価値(実力)を表す便利な尺度が有って、それは日本円の実質実効為替レート(JPY-ERER;Effective Real Exchange Rate of Japanese Yen)である。ポートフォリオ構築の基礎となる内外の債券や株式の価格推移を日本円で計測するのではなく、このJPY-ERERで計測し、それらの経時変化からリターン、リスク、相関係数等の統計パラメータを求め、これらを基にポートフォリオを構築すると、日本(一部の超々高関税農畜産品以外はある程度自由に輸出入できる国)での生活に適した「ベスト」に近い資産運用ができる筈である。

なお、JPY-ERERは、各国通貨に対する日本円の為替レートを、各国の貿易への寄与率で加重平均(実効化)し、更に各国のインフレ・デフレ率で補正を加え(実質化)た為替レートの指数として算出される。1980年1月以降のJPY-ERERの月次データが、日本銀行のホームページで公開されている(http://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/m.html)。JPY-ERERが大きい値なら円高、小さいと円安である。

内外の債券や株式等の金融商品の「JPY-ERER建て」評価値は、
 {円建てのインデックス値}×{「日銀発表の日本円実質実効為替レート」÷100}
で計算する。「÷100」が付いているのは、「日銀発表の日本円実質実効為替レート」が2010年の日本円価値を100とした指数で表示されているからである。

以下に各クラスの金融商品インデックスの「JPY-ERER」建て値の算出法を具体的に記録しておくが、計算手順の細かい話なので下の二本の点線で挟まれた部分は読み飛ばしても差し支えない。
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国内債券指数 略称:日債
「日興債券パーフォーマンスインデックス」(http://www.nikko-fi.co.jp/Nindex/data/bond/download/indexm.txt)の「総合」の「CMP (compositeの略号?)」の値に{「日銀発表の実質実効為替レート」÷100}を掛けて算出する。

先進外国国債指数 略称:外債
日本以外の先進国(米国等22ケ国)の国債の加重平均債券指数として最もポピュラーな指数はCitigroup World Government Bond Index (WGBI) ex JP であるが、これは無料公開されてない。そこでちょっと手間を掛けてこの指数の円建て値(近似値)の時系列データを作っている(http://williberich.at.webry.info/201204/article_3.html)。この円建て値に{「日銀発表の実質実効為替レート」÷100}を掛けて、JPY-ERER建ての外債指数を算出する。

日本株価指数 略称:日株 
TOPIX値を使いたいが時系列データが無料公開されてないので、MSCIが無料提供しているJapan指数を用いる。
MSCI-Barra社のホームページのMSCI Index Performance ページ(http://www.msci.com/products/indexes/country_and_regional/dm/performance.html)の Country タブ下のDeveloped Markets (DM), USD, Net, Index Family = None, Standard, Style = None のパラメータを選びSearchをクリックしたら表示される、Japan欄の各月末日のLast の値を使う。こうして得た値は、ドル建て、税引配当再投資の指数である。この指数に、yahooファイナンスのホームページの米ドル/日本円の時系列データの月末の終値(http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/history/?code=USDJPY=X)を掛けて円建て値にし、これに更に{「日銀発表の実質実効為替レート」の月次データ/100}を掛けて、JPY-ERER建ての日本株式指数(月末値)を得る。

MSCI Kokusai 株価指数  略称:外株
MSCI Index Performance (http://www.msci.com/products/indexes/country_and_regional/dm/performance.html)の Country タブ下のDeveloped Markets (DM), USD, Net, Index Family = None, Standard, Style = None のパラメータを選び、KOKUSAI INDEX (WORLD ex JP) 欄の各月末日のLast の値を使う。これは日本以外の先進国(米国等22ケ国)の平均株価指数のドル建て値であり、これに米ドル/日本円為替レートと実質実効為替レート/100を掛けてJPY-ERER建ての先進外国株式指数(月末値)を得る。

MSCI エマージング国株価指数  略称:EM株
MSCI Index Performance (http://www.msci.com/products/indexes/country_and_regional/dm/performance.html)の Country タブ下のEmerging Markets (EM), USD, Net, Index Family = None, Standard, Style = None のパラメータを選び、EM (EMERGING MARKETS)欄 の各月末日のLast の値を使う。これはエマージング国(ブラジル、中国等21ケ国)の平均株価指数のドル建て値であり、これに米ドル/日本円為替レートと実質実効為替レート/100を掛けてJPY-ERER建てのEM国株式指数(月末値)を得る。
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こうして算出したJPY-ERER建ての金融商品インデックスの常用対数値の時系列データをグラフにして、図20-38-1を得る。なお、金融商品インデックスの経時変化はその対数をプロットすべきことは既に考察した通りである(http://williberich.at.webry.info/200906/article_1.html)。

画像
   (図をクリックすると、大きな図が出ます)

この図の中の直線は各インデックスの経時変化の一次回帰線であり、数式は回帰線のものである。yは log10(インデックス値)、x は経過日数である。着色点線の直線はインデックス経時変化の太曲線部分に対する一次回帰線、その式はボルド体で表示している。黒直線はインデックス経時変化の太曲線部分と細線部分の両方(つまり全期間)に対する一次回帰線であり、その式は細字体で表示している。

このグラフは当然のことながら、円建てのインデックスのグラフとはかなり異なった様相を示す。

まず日本円実質実効為替レート(JPY-ERER,)の常用対数の経時変化(図20-38-1の最下部の茶色曲線)を見る。1980年以降の全期間に亘る一次回帰線の傾きは、年率(複利)が +0.06% の極めて緩やかな上昇であり、日本円の実力は極めてゆっくり強くなっているように見える。しかし茶色グラフをよく見ると、JPY-ERERの長期変化傾向は1994年頃を境にして上昇から下降に転じている。1994年以降のJPY-ERERは複利年利で -1.3% で減価している。これは年利1%未満の利率で預貯金していては、購買力がゆっくりと下がっていることを意味している。「生活防衛費」として無リスク金融商品(定期預金、個人向け国債、あるいは日本円MMF)で2年分の生活費程度の金額を運用していても、実は「無リスク」ではないことになる。したがって、「生活防衛費」の運用方法の再検討が必要である。

JPY-ERER建ての国内債券インデックス(赤の曲線)は1994年以降ゆっくりと下落していて、その年利(複利)は -0.57% である。そして、インデックス値の変動幅(つまりリスク)もかなり大きい。JPY-ERER建てでこのインデックスを評価したので、国内債券インデックスにも為替リスク(このリスクは貿易において日本円の価値が変動し、それが輸入品価格を通して国内物価に跳ね返ってくるという意味のリスクである)が載ってくる。そのために国内債券のリスクが大きくなっている。先進外国国債指数(黒緑の曲線)の変動幅よりも国内債券インデックスの変動幅の方が大きい。円建てで評価した場合には、国内債券インデックスは極めて低い利率であっても、変動幅が極端に小さく、そして他のインデックスと負の相関を示す。そのため、円建て指数に基づくポートフォリオの中で国内債券投資が大きな部分を占めていた。日本円建て指数を基礎としてポートフォリオを組んでいたために、国内投資割合が過多になるというホームバイアスが掛かってしまった。今後、JPY-ERER建てでポートフォリオを構築すると、過剰な国内投資というホームバイアスを適切に避けることができる筈である。

なお、1980年以降今に至る全期間で見ると、JPY-ERER建て国内債券インデックスは年利(複利)+4.3%で増加していることになる。日本資産バブル崩壊(1990年)以前の日本経済の栄光の時代の余波がまだ残っているからである。

図20-38-1のピンクの曲線はJPY-ERER建て国内株式インデックスの経時変化を示す。日本資産バブル末期(1987年)以降今に至る期間の経時変化は -3.5% の年利(複利)での恒常的な実質価値下落を示している。日本株への長期投資によって実質資産の増額に成功した人がいるのだろうか。よほどの目利きの人以外は国内株式投資では失敗しているのだろうと想像できる。

図20-38-1のグラフ全体を眺めると、最近20年間余りの世界の経済状況は投資に不利であったことを示している。だからと言って国内預貯金で資産を守っていても、年利1%前後で実質資産は減額していて、投資しなかったら良かったというわけではない。先進外国株、エマージング国株、そして先進外国国債の三つのクラスにドルコスト法で定額ずつ投資を継続して長期運用していれば、何とかポジティブな資産運用ができていたのだろうと想像する。

次回から、JPY-ERER建てインデックスに基づいてた資産運用法を具体的に検討する。ただし、アセットアロケーションの急激な変化(投資信託の多量の売買)は避けて、少し時間をかけてアセットアロケーションを変えてゆく方が良いと考える。

2014/5/29 追記
ERERベースでポートフォリオを組みたいのなら、海外もの(債券、株式、リートなど)のインデックスファンドが各国通貨ERERベースで組立られてなければ全体としての辻褄が合わない。しかし、そんなファンドも無いし、インデックスすら無い。したがって「JPY-ERER建」のみ導入して各インデックスファンドを評価しなおすだけになる。JPY-ERERだけでも導入する利点は、多少とも、(1)円安による名目評価額(円建ての値)だけの上昇が目標となることを避ける;(2)日本債券や日本株への過剰な投資(ホーム バイアス)を避けることができる。このようなポートフォリオの組立を、定性的考察のみに基づいて、したがって気分や感情に流され易い形ではなく、定量的過程に基づいて進めたいというのがこの記事の目標である。
(2014/5/9/UP)(2014/5/29追記)

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