(20-1)  金融商品時価時系列データの統計処理を価格変動倍率の対数(対数正規分布)で行う必要性

要旨: 投資信託値動きの log(1 + r) = log(今月末時価/前月末時価) を確率変数とし、その正規分布を仮定して統計処理すると、投資信託や複数の投資信託に分散投資した場合の将来の資産価値を推計できる。ポイントは (1 + r) や r でなく log(1 + r) を確率変数に選ぶことにある。
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 株式や債券やその投資信託(略して投信、ファンド)の価格は複利で上昇・下落するが、その利率は様々な社会的、経済的、政治的現象に応じて変動し、その変動を的確に予測することは無理である。そこで、これら金融商品の時価はランダムに変動する利率の複利ルールに従って上昇・下落し、その将来の利率の変動の平均幅や平均値は過去の変動と同様であるというモデルに基づいて資産運用を考える。 そうすると次は変動する利率の平均値や平均変動幅をどう計算するかが問題となる。

 ある投信を購入し、数年間運用した場合、
最初の1年で資産は (1 + r_1) 倍に増加し
  (1年目の年利はr_1の分率表示値;年利5%なら r_1 = 0.05)、
2年目には更に (1 + r_2) 倍増加する(2年目の年利はr_2)、
という具合に複利で増減するので、
  資産時価=(初期投資額)× (1 + r_1)×(1 + r_2)×(1 + r_3)×・・・
となる。この間の年間増額倍率の平均値 (1 + R) (つまり、平均年利の分率表示を R とした)は各年の増額倍率の相乗平均となり、相加平均ではない。
 
 困ったことに通常の統計理論は相加平均に基づいて構築されている。そこで対数の利用が登場する。真数の積は、対数では和になる。従って投信の時価の増加倍率 (1 + r) や利率rそのものではなく、倍率の常用対数 log_10(1 + r) (log_10(1 + r)を文章中では 「log倍率」 と書く) を取ってその相加平均を取ると、平均増額倍率の対数 log_10 (1 +R)  (つまり 「log平均倍率」)になる。なお、以降では常用対数を簡単のため底の「10」を省略して log と表示する。そうすると次のような手順を踏めばよいことになる。まず投信時価の例えば1ヶ月毎の時価の倍率の長期時系列データを収集し、それらの1ヶ月間毎の時価倍率の対数を取って、その相加平均や標準偏差を求める。そうすると、その平均値(「log倍率」の平均値)と標準偏差(「log倍率」の標準偏差)に従ってランダム変動する「log倍率」 が将来も順次現れて(つまり、“歴史は繰り返す”を信じる)、数年経過後の累積対数倍率、
Σ(「log倍率」) = log[(1 + r_1)×(1 + r_2)×(1 + r_3)×・・・]
を統計的に推計できることになる。つまり、長期運用の後には初期投資金額が元の
   (1 + r_1)×(1 + r_2)×(1 + r_3)×・・・倍
になっていて、それがどの倍率範囲にどの程度の確率でなっているかを前もって予測できる“筈である”。


 次に、rが1に較べて充分小さいときにはlog(1 + r) がrに比例することは対数のテーラー展開から自明であり、この場合log(1 + r)が正規分布に従うか、それともrが正規分布に従うかという区別は無意味である。つまりrが1に較べて充分小さい限り(つまり、rは短期間に対する利率ということになる)、rが正規分布していれば、必然的にlog(1 + r) も正規分布している。その逆も真である。一方、1年間か2年間単位くらいの長期の値動きの利率rは1に較べて小さくはない値になることが多いので、その互いに独立な値を充分多数集めてヒストグラムを描くと、log(1 + r) とrのいずれが正規分布に従うかを判断できて、ここで採択するモデルが現実の金融商品価格変動をどの程度再現しているかを判断できる。しかし、データ収集に要する労力は大変だろうと思う。なお、既に見たように(http://williberich.at.webry.info/201006/article_5.html)、MSCI KOKUSAI や MSCI JAPAN のNet指数の円換算値の長期に亘る月次時系列データから計算した一ヶ月間の利率rは大略で正規分布している。

 このように、資産価値変動が複利のルールに従う金融商品(株式や債券やそれらの投信)について、その価格のランダムな変動の推計は、その倍率で表した変動の対数、log(今回価格/前回価格)、で統計処理すべきであることを、「価格変動は対数正規分布に従う」という変則な表現で表わされているようである。紛らわしくない表現法は、「複利ルールに従う価格変動の平均は相乗平均であり、この場合の統計処理は価格変動倍率を対数変換して扱うと相加平均の統計学が使えて便利である」となる。「株価や債券価格の日々・月々・年々の変動の倍率や利率ではなく、その対数が正規分布している」ことを直接実証してそれを表現しているのではなく、「(実際に充分多数のデータに当って検証済みというわけではないが)こうなっている筈である」と表現するのが妥当であろう。
 一方で、「筈である」に基づいて推計するしか方法が無く、そしてこういった方法を対数正規分布と表すことが一般的らしいので、ここでも「対数正規分布」の用語を使う。

 以上の要点を纏めると次の様になる: 投資信託の log(1 + r) = log(今月末時価/前月末時価) を確率変数として(「月」を「日」や「年」等にしても可)、その正規分布を仮定して統計処理すると将来の投資信託の価格を推計できる。
(2011/2/22/UP)(2011/2/28/手直し)

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